鬼の棲む街
友達



「石山さ〜んっ、何かあったの?」


結局、週末を挟んで一週間振りに顔を出した大学の門を入ったところで田川さんに捕まった


「何って・・・熱が出たの」


杉田さんのお陰か田川さんの質問にも自然に答えていた


「え、嘘、もう平気なの?」


少し背の低い田川さんはこちらを見上げていて

その瞳は心配そうにも見える


「うん。もう平気」


「そっか〜良かった。先週全然姿が見えなかったから心配してたんだよ?
ほら、アドレスも知らないから安否確認も出来ないし」


「安否確認って・・・」


言葉のチョイスがおかしくて気がつけばフフと笑っていた


「・・・っ」


「ん?どうしたの?」


「・・・いや、だって・・・初めてだよ?石山さんが笑ってくれたの」


「そうだっけ?」


「そうだよ」


そんなやり取りをしながら講義室に到着すると


「石山さん、おはよう」
「先週はどうしたの?」
「おはよう」


視線が合った途端に声をかけられた


答えなきゃと思う反面、嫌な過去が交差して躊躇う


その空気を破るみたいに


「石山さん熱だったそうよ〜」


田川さんが明るい声を上げた


「もう大丈夫?」
「無理しないでね」
「病院行った?」


大勢に心配されるなんて慣れない感じにむず痒さが生まれる


それでも


この街で心機一転と決めたのだ


「たっぷり寝たからもう平気」


「そっかぁ。無理せずにね」


「うん」


何気ないやり取りができた達成感に泣き出しそうな気分を無理矢理閉じ込めていつもの席へと足を向けた











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