禁忌は解禁される
一颯の誤算
「もしもし、井田?
ちょっと、若に代わる」
「若」
「ん」
「もしもし、姉ちゃん出して?」
『今、お一人でゆっくりしたいからと、お部屋にいらっしゃるので代われません。
申し訳ありません』
一颯がいるスイートルームの前に控えている、井田。
一颯に“颯天には言わないで”と言われているので、なんとか誤魔化そうとする。

「は?家にいんの?」
『いえ』
「じゃあ…どこにいる?」
『それは…申し上げられません』
「は?なんだよ、それ…!
お前、俺に口答え?」
『いえ。
しかし…俺は姫の護衛で傍に仕えさせていただいてます。姫の意向に逆らうことはできません』
「見合い相手か…
今一緒にいんの?」
『いえ、姫お一人です』
「わかった。もういい!
姉ちゃんに言っといて。
“俺を…なめるな”って!」

「はい、スマホ」
と助手席に座っている町野にスマホを投げて渡す、颯天。
「…っと。若?」
「GPS」
「は?」
「スマホのGPS!姉ちゃんの居場所。教えて?」
「若、どうされたんですか?今、姫は見合い中なのでは?」
「いいから、早く…連れてけよ!姉ちゃんとこに」
バックミラーごしの颯天の目。
逆らえば、みんな地獄に堕ちるような冷たく黒い恐ろしい目だ。

「わかりました…」

もう誰も……颯天に逆らえない━━━━━━



「━━━━失礼、一颯は?」
スイートルームの前に、七夜が現れた。

「今、お部屋でゆっくりされてます」
「仕事を少し早く終わらせたから、会いに来たんだけど……」
「では、お呼びします」
「いや、いいよ。後は自分で」
「はい」

部屋のチャイムを鳴らす、七夜。
< 20 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop