私はずっと自分に自信がないまま生きてきました。親兄弟には『もっと努力しなさい』と言われるばかりで、いつも私の頑張りが足りないんだと思っていたんです。
 学校の勉強も母に決められた習い事も……あの婚約者の男性を好きになる努力も、私はもっともっと頑張るべきだったんです。

 私はずっとあの家のお荷物で、柚瑠木(ゆるぎ)さんに嫁げば少しくらいは誰かの役に立てるかもしれない、そう思っていたのですが……

 私の不注意で狭山(さやま)常務に攫われて、柚瑠木さんにもお友達の狭山さんにも迷惑をかけてしまいました。柚瑠木さんはそんな私の事を「迷惑だなんて思ってない」と言ってくれましたが、本当はもっと賢い妻だったら……と思われたかもしれません。
 私には頑張っても柚瑠木さんに相応しい妻になれそうにありません……私は彼から離れた方がいいのでしょうか?
 そう考えた瞬間、目の前に大きな闇が広がりました。

『こんな手のかかる妻はお断りです。さようなら、月菜(つきな)さん。』

 その闇に浮かび上がりその一言だけで私から去っていく柚瑠木さん。
 そんな彼の姿に胸の奥がキュウっと苦しくて、涙が滲んできました。私は彼を引き止めるすべも持っていないのです。

「月菜さん、何故泣くんですか?」

 近くで聞こえてきた柚瑠木さんの声、優しく涙を拭ってくれる暖かな手のひら……彼のおかげでゆっくりと意識が覚醒してきました。瞼を開けるとすぐ傍に柚瑠木さんが座っていました。

「……少しだけ夢を、見ていたんです。」

 そう、すこしだけ怖い夢。
 だけど柚瑠木さんが私の事を救ってくれました。怖い夢からも狭山常務たちからも。