あの日のつづき

「叶わなかった恋」というより、自分から手放してしまった恋だった。


河合君は物静かでクラスでも目立たない存在だった。

そんな彼に恋をした日のことを、今でもはっきり思い出せる。


 高校に入学したばかりで、まだ学校にも教室にも、クラスメイトにも慣れなくて、人見知りの私は休み時間に何をするでもなく一人席に座って、ただ居心地の悪さを感じていた。

ほんとに何気なく、ふっと顔を上げた。

その時目に入ったのが、河合君だった。

彼は日直だったようで、すごく真面目な顔をして黒板を消していた。

だけど、近くにいた男子にちょっかいを出されて、そのうち数人でじゃれ合いだした。

その時のくしゃっとなった彼の笑顔に、私の胸が跳ねた。

始業のチャイムが鳴るまで、その姿から目が離せなかった。

体の底から込み上げてくるくすぐったさとにやける顔を、授業中ずっと押し殺していた。

授業が終わって昼休みになると、担任の先生の思い付きで、出席番号をもとに男女のグループを作って机をくっつけてお弁当にしようということになった。

私の出席番号は女子の先頭から数えて、六番目。

河合君の出席番号は、男子の先頭から数えて、六番目。

なんと、向かい合わせで座ることになった。

恥ずかしさに前を向いて食べることなんてできなかった。

だけど、一瞬だけ顔を上げてみた。

あの休み時間と同じように、ふっと。

目は合わなかった。

代わりに、その視線の先を追いかけた。

その先を追って、嫌でもわかってしまった。

その視線の先にいるのは、私の隣の席に座る子だということを。

気のせいにしてしまえばよかった。

だけど、気のせいにできなかったのは、彼女を見つめる彼の目が、私と同じなような気がしたから。

あろうことか、恋が始まった直後に、恋の終わりを告げられてしまった。
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