販売員だって恋します
「逃げられたか……。」
自嘲的な笑みがこぼれた。

最低なところを見られているのだし、昨日の提案自体もよく付き合ってくれたと思う。

大藤は彼女に声をかけた後、秘書室に戻って百貨店の従業員を名前から確認した。
彼女は自分の雇い主一家の子息である、成田翔馬の交際相手の元宮奏と同じ勤務先だと分かったのである。

その時思い出したのだ。
社員食堂で元宮奏と食事をしていた、その楽しそうな笑顔。

あまりにも表情が違うので、分からなかった。
最悪なところを見られたと思う。
大藤のことを最低な男だと思っただろう。

それでも、あんな茶番に付き合ってくれた。

大藤はサイドテーブルに置いた眼鏡に、手を伸ばす。

自分にしては珍しく、どうしても欲しくて連れ込んでしまったけれど、お酒も入っていたし、由佳にはなかったことにしたい出来事なのかも知れない。

「行いが悪すぎましたよね……。」

去るもの追わず。
ずっとそれで過ごしてきた大藤だ。

ふうとため息をついて、支度をするべく大藤はベッドを出たのだった。
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