販売員だって恋します
その、瞬間に、ふと冷めてしまうことがあって、恋愛からは遠のいている。

なのに……。
あの時、なぜ大藤の部屋に入ってしまったのか。

あの人……きっと、のまれないわ。
きっといつものように、真っ直ぐに綺麗に背を伸ばしてその場にいる。

でも……由佳はあの最初に見た冷たい表情にいつも囚われてしまって、好きになってはいけない、そう言い聞かせてしまうのだ。

「……っ……。」
「由佳さん?」
「私……」

白くて綺麗なリネンのクロスがかかったテーブルの上で、由佳の細い指がきゅっと結ばれた。

その手に神崎がそっと手をのせた。
「話しましょう。そう、約束しましたよね。」
揺れる、柔らかいキャンドル越しの光に、ふわりと笑う神崎の笑顔があった。

「私……神崎さんとはとても分かり合えると思います。」
「そうですね。僕にとっても、そんな方はとても貴重なんですよ。」
「あの……でも、まだ、結婚の決心は……」

「由佳さん。ごめんなさい。お詫びします。」
「え……?」
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