金木犀
3.君の瞳
ーside 湊ー



寂しい瞳。


悲しい瞳。


まるで、この世の全ての出来事に反対するような瞳。



目は心を映す鏡というように、当時の星南の心の中を映し出しているようだった。



1人で強く生きるという決意が14歳の彼女に強く見られていた。


誰も信用はせず、頼らず、1人で生きていくことを決めていた。



星南の瞳は、そんな瞳をしていた。


どこか必死に生きていて。


誰よりも人の温もりと愛情を求めている。



寂しくて、愛されたくて、求めたくて。




自分が生きている意味が分からない辛さを抱えながら、暗闇の中でたくさんもがき続けたのだろう。


そんな、一人の時間があったかこそ今星南に涙が溢れ出ているんだろう。



その温かい涙は自分の意思では止めることはできない。


きっと、とっくの前から限界だったんだろうな…。


そうじゃなきゃ、今こうして俺に寄りかかっていないだろう。



初めて見せた星南の涙。



ずっと我慢してきたんだろうな。



「星南、泣きたい時は我慢せず泣けばいいんだ。


だけど、1人で泣くのは許さない。


そんなことは俺がさせないけどな。


安心しろ。


これからの未来は、俺が明るく照らすから。


お前の幸せを誰にも邪魔はさせない。


だから、誰かに寄りかかって生きていたっていいんだ。


1人ではどうも出来ないことだってたくさんあるんだから。」




俺の言葉に、星南は首を横に振りながら何かを考えていた。



「誰かに寄りかかって、信頼して生きていることが幸せだって思えないんだけど。


信用なんて、できない。


人間なんてすぐ、人を騙すし言葉だって上辺だけ。


裏切られて、騙されてそんな人生何が幸せだって言うの?


裏切られることが、どれだけ苦しくて辛いか。


だから私は…1人で生きようと決めたの。


誰にも頼らない。


信用なんて…できるわけない…」




そう言って、俺の胸を突き放そうとする星南を俺は再び強く抱きしめた。



星南の一言一言は重みがあって、心の中に突き刺さるような感覚だった。



寂しい瞳からは、人に対しての不信感が強く伝わってくる。



今までの人生の中で、たくさんそういう経験をしてきたのだろう。



だからこそ、決して軽んじて捉えていい言葉では無い。




「星南。


ちょっと顔を上げろ。」




俺は星南の顎をすくい、視線を捉えた。



決して、視線を逸らすことができないように。



やっぱり。



人を信用していないとはいえ、星南の瞳は綺麗だな。



きっと心は強がっていても、何もかも信用出来ていないんだとしても。



曇りのない、綺麗な瞳をしている。



何色にも染められていない、純白な綺麗な心をしているんだろうな。



「もう…離してよ…。」



次第に弱々しくなっていく星南の声。



「星南。話を聞いてくれ。


星南。ただ、お前を守りたいんだ。


お前を支えていきたい。


今は、信用出来なくていい。


無理に信用しろとも言わない。


それでも俺は、いつでも星南のそばにいる。


約束する。星南が泣きたい時、辛い時、苦しい時や悲しい時には俺が星南のそばで支える。


星南の背負ってる物を、俺が半分背負うから。


大きく構えているから、安心してお前の感情をいつでもぶつけてこい。」




星南が人を信用出来なくなってしまった経緯はよく分からない。



それでも、気持ちを隠さないでほしい。



星南の心の扉が頑丈に閉められていたとしても、何度でも俺はその扉を前に星南の心の声に耳を傾けていきたい。



そして、言葉を掛け続けていきたい。



この綺麗な瞳、純粋な心を持つ彼女を一生かけて守って行きたい。



彼女と初めてであった2年前のあの日から、ずっとその気持ちは変わらない。



ずっと、探し求めていた。



もう一度、彼女に会えるたら…。



会いたい。



星南と出会ったから、その思いは募るばかりだった。





毎日毎日、街ゆく人を見ればどこかに星南がいないだろうかと探している自分がいた。




一目惚れという言葉は、本当にあるんだな。



最初に出会ったその日から、俺の心や頭の中はお前でいっぱいだった。



2年もの間、音沙汰無しだった星南だけど。



それでも、片時もお前を考えない日なんてなかった。



言葉として伝えられたのは今頃になってしまったけど。



その覚悟が揺らいだことなんて1度もない。



最初から闇のある子だということは分かっていた。



それでも俺は、星南の笑顔が見たい。



何よりも、星南の幸せはきっと俺の幸せだから。
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