憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
4章
「まぁ、王妃陛下ごきげんよう。まさかお会いできるとは思いませんでしたわ」
天気の良い午後。王宮の中庭を少しばかり散歩していると、唐突に背後から可愛らしい高音の声に呼び止められた。なんとなく声で誰なのか予想がついてしまった私は、慌ててその場で最高の作り笑顔を貼り付ける。
「まぁチェルシー様ご機嫌よう」
振り返ればやはりそこには予想通りの人物がいた。アースラン王太子の正妃である。チェルシー王太子妃殿下だ。革新派の中でも筆頭の家系出身の彼女は、艶やかなブロンドの髪に扇のようなまつ毛に縁取られたブルーの瞳。年齢よりも少しばかり幼いお顔立ちは黙っていればお人形のように可愛らしい。そんな可愛らしいお顔に彼女は満面の笑顔を浮かべて、私の元へ近づいてくる。まるで逃すものですか!と、言うように。
「お体はもうよろしいのですか?悪阻が酷いと伺って心配しておりましたのよ?」
そう言った彼女の視線がチラチラと私のお腹に向けられている気配を感じるけれど、私はその視線に一切気づかないふりを決め込んだ。
数日前、先王陛下ご夫妻がみえた時、アースラン王太子殿下の話になった中でアースラン王太子殿下のお考えが読めないという先王陛下のご意見には、私も共感しものだ。
しかし、彼の妃…チェルシー王太子妃殿下のお考えは、とてつもなく分かりやすくて…それ故にあまり近づきたくないのが本音なところだった。
しかし私は王妃、伊達に過酷な王妃教育に耐えて、勝ち抜いてきてない。そんな事はお首にも出す事はしない。
「えぇありがたいことに、折り返しはすぎたようですわ。でも空腹になるとやはり駄目ですのよ。なのでお腹いっぱい食べてからお散歩をするようにしておりますの」
これは最近のユーリ様の様子を見ていての話だ。元気に動ける時間は動けるのだと言っておかねば、あらぬ噂を立てられかねない。
「まぁそうですの!でもお元気になられてきたのなら良かったですわ!」
パチンと手を合わせたチェルシー様はそう言いながらもわざとらしく視線で何かを探している。
「陛下はお忙しいのでしょうか?ご一緒にお散歩されていると思ったのですが?」
やはりか…。彼女の狙いが分かってその場で盛大にため息をこぼしたくなるのをグッと堪える。
「えぇ、このところ立て込んでいるみたいです。一緒に外に出たがっておりましたけれど、宰相に睨まれて、今も報告書に囲まれて頭を抱えておいででした。」
実際のところは、今のユーリ様は昼食をとってしばし横になっている。ジフロードが側についていて、彼は午前中に私とユーリ様で協力して捌いた仕事の最終確認をしているのだが。
まぁものは言いようだ。
「まぁそんなにもお忙しいのですか?それは大変ですわね。」
私の言葉にわざとらしく驚いてみせる彼女の目は、すでに何かの糸口を捉えたと言う目をしている。
「ご本人は時期が時期だからと仰せですけれど、父になるという思いから少し頑張りすぎているようにも感じてますの。」
いったい何が言いたいのだろうか?そろそろ彼女の真意を聞き出してみようと、わざと餌になりそうな言葉を言ってみる。
「まぁ!それは大変ですわね。王妃殿下もさぞお慰めできずお辛いでしょう!失礼ながら公妃をお取りになる事などはお考えにはなっておられないのでしょうか?」
はい、かかった!ぶち込んできたよ~。
心の中で私は拳を握る。今日、彼女がわざわざ王宮まで出向いて、わざわざ私を呼び止めた目的がこれで明確になった。やはり革新派が動いているのは間違いないのだと、確信を持つには十分だ。
「それは私にはなんとも…陛下のお決めになることですし」
少々困った表情で、それは私には預かり知らぬ話だとやんわりと答えてみる。
「ご妊娠中の王妃陛下に遠慮して言えないのですわ、きっと!国王陛下もお若い男性なのですから、王妃陛下がご妊娠の合間だけでもお慰めする者が必要だとは思いませんか?」
そうでないと、これほどの激務に耐えておられる陛下がお気の毒ですわ。と付け加え、親切ぶった無害な笑顔で小首を傾げた彼女は、最後に少しばかり意地悪そうな笑みを覗かせた。
なるほどね。お立場上のお役目でこんな事を言いにきたのかとも思ったけれど、どうやら
そこには少しばかり彼女の私情もまざっているらしい。
口元に手を当てて、わざと和やかな様子でふふふっと心底楽しそうに笑ってみせる。
「まぁ!私と陛下にそのような遠慮がおありだと!?ふふっご心配をありがとうございますわチェルシー様。そうですわね、陛下も立派な男性でいらっしゃいますものね。いずれ、陛下が私に飽きてしまわれた暁には、そうしたことも考えさせていただきますわ。」
今はまだ、陛下は私以外の女性には興味がないようなので、そんな時に興味のない女性を充てがわれても意味がございませんもの!と暗に今は時ではないのだと、多少惚気ながら伝えれば、同調する様にチェルシー様も「あらまぁ、あいも変わらずお熱いですのね?うらやましいですわぁ」とコロコロと笑った。
その目の奥は、全く笑えていないのを、私が見逃すはずはない。
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