涙の涸れる日
結婚生活
 夕食の支度を終えて、ふと時計を見る。まだ六時半を少し過ぎたところ。

 真冬なら既に真っ暗な時間だけれど、五月もそろそろ終わる今頃の陽射しはまだリビングを明るく照らしている。

 結婚して二年になる夫の佑真は仕事で遅くなる事も多く、先に食べて良いよと言われているけれど、朝はコーヒーしか飲まない彼と夕食くらいは一緒に食べたいと思う。

 それでも八時には入浴し、九時になっても帰宅しない時は一人で先に食事も済ませる。

 寂しくないと言えば嘘になるけれど、仕事には口出しすべきではないと思うから、好きな小説を読んだりスマホで時間を潰している。

 都心に近いこのマンションは、本多不動産の社長をしている父の持ち物。家賃は要らない。住んでくれるだけで充分だからと甘やかされている。

 四歳上の兄の本多凌太(ほんだ りょうた)は副社長として父と仕事をしている。職場では鬼副社長と噂されているらしいが、私にはとびきり甘い優しい兄だ。

 夫の佑真は化粧品会社の営業部に勤め、接待などで遅い日が多い。ゴールデンウィークも出張が入ったと三日間家を空ける程に忙しいらしい。


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