恋愛タイムカプセル
episode 5. 罪と告白
 彼、北原春樹と同じ学校に入学したと知った時、私は妙な嬉しさを覚えた。

 小、中と別々の学校に通っていたが、以前から彼のことを知っていたので仲の良い友達と同じ学校になれた気分だった。

 しかし、小学校の時の印象を淡く残し、彼はすっかり人気者になっていた。彼と同じ中学出身の子と友達になった私は、彼のバレンタインデーの武勇伝を聞いて随分驚愕した。

 それほど大きな高校ではなかったけれど、クラスに一人ぐらいの割合で彼のことを好きな子がいた。もちろん、その中には私も含まれている。

 ハッキリと好きという感情を持つ女子と、そうでないけれど彼に好意を抱いている女子を足したら、優に一つのクラスを超えたのではないだろうか。

 もちろんこれは私の想像だが、そう思えるぐらいには彼は王子様扱いを受けていたのだ。

 彼は陸上部に、私は美術部に入部した。

 一見、接点はないが、美術部の部室────美術室は一階にあり、陸上部の練習している場所にかなり近かった。

 おかげで私はいつも彼を眺めていられた。写生と称してグラウンド(ちょこっと彼が写っている)を描いたこともある。

 彼は高跳びの選手だった。すごく優秀な選手ではなかったようだけれど、彼が優雅に宙を飛ぶ姿は女の子達を喜ばせた。

 けれど、部活の邪魔になるので彼に差し入れをしたりするような女子はいなかった。私達女生徒は遠巻きに、心の中で彼を応援していた。

 彼は昔から穏やかで人当たりがよく、魅力のある少年だった。女子から王子様扱いを受けているけれど、男子とも仲が良かった。

 私は特にきっかけもなく彼と話すようになった。私が特別だったのではない。彼は誰とでも分け隔てなく話していた。

 彼はいつも人と一緒にいた。そうでない時は一人で本を読んでいた。

 そのギャップが良かったのか、女子達は彼を高嶺の花のように扱い、「王子様」というあだ名をつけた。もちろん、彼本人に王子様なんて言ったりしなかったが、女の子同士の間では影でこっそりそう呼んでいたし、彼も知っていることだった。

 私達は時々話した。それはたまたまだったり、友達と一緒にだったり、いろんなシチュエーションでだ。

 彼は優しかった。態度が、というより言葉が。なにげない一言一言が。小さな行動が。私が本気で彼を好きになるのに時間はかからなかった。

 けれどこの時、私は彼に想いを伝えようなどとは微塵も考えていなかった。振られることは目に見えていたし、そんな勇気もなかった。彼の方から告白してくれたらいいのになんて淡い妄想を抱いていた。

 私達は仲良くやっていたように思う。私がそんな分不相応な妄想を抱くぐらいには。

 けれどそれは、ある時突然壊れた。
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