恋愛タイムカプセル
 仕事後、私と由香はちょっと奮発していつもより少し高めのフレンチを食べに行った。

 日中は機嫌良く仕事していたので、この幸福なまま一日を終わらせたかった。

 雰囲気のいい生ピアノの伴奏を聴きながら乾杯してワイングラスを傾ける。お酒はあまり飲まないけれど、せっかくなので背伸びして注文してみた。「喉越しが爽やかな甘口ワインです」と説明されたワインはまだお子様舌の私には苦かった。けれど、嫌な味ではない。

「まさか朝陽に彼氏ができるなんてね」

「それは、私も驚いた。まさか彼と付き合うことになるなんて……想像もしなかったよ」

「どっちが告白したの?」

 お決まりの質問だ。どっちだっただろうか。回想するが、告白らしい告白はしなかったかも知れない。なにせそんなつもりまるでなかったのだ。なんなら、私はあの時不機嫌だった。不貞腐れていた。

 それを、突然彼が色々尋ねてきて、結果的にそうなったのだ。

「うーん、告白とかはしてない……かも。でも、お互いの気持ちは確認したかな」

「ふうん?」

 想像できないのか、由香は不思議そうな表情を浮かべた。

「まあいいか。せっかく両思いになったんだもん。頑張って青春を謳歌したまえ」

「でも、よくわからないことがあるんだ」

「なに?」

「前に言ったっけ。彼、高校の時に付き合ってた彼女がいたの。でも、小学生の時、私と話したこととか全部覚えてるんだよ。なんだか不思議じゃない?」

 由香は腕を組んでうーんと唸り声をあげた。私も、そんな声を出したい気分だ。

 彼は一体いつから私のことを知っていたのだろう。そんな昔のことを覚えていられることが不思議だった。

 小学生の時のことなんて、余程思い出深かったこと以外は綺麗さっぱり忘れている。だから彼が未だにそのことを覚えていることが不思議でならない。

「実は気になってはいたけど、好きって言えなかった……とか? ああでも、彼女がいたんだっけ……それか、目は付けてたけど好きってほどでもなかったとか……わかんない」

「ね、変でしょう?」

「うーん、本人に聞いてみたら?」

「でもそれを聞くと、元カノと別れた時のことをほじくり返すみたいで嫌なんだ。私のことが気になってたんだとしても、そうするとなんで元カノと付き合ったのか分からないし」

「でも王子様なんて言われてたんでしょ? 結構なプレイボーイなんじゃないの?」

「そんなことないよ。絶対二股するような人じゃないもの」

 ますます謎は深まる。
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