あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter3*ミイラは取っても取られるな!?
[1]


わたしが今の会社に転職したのは、ちょうど三年前の春だった。


大学を卒業したあと、わたしは横浜にある貿易会社に就職していた。

子どもの時から“橋”が好きだったわたし。中学生の時は橋を建築する建築士になりたいと思っていたのだけれど、建築士なんて数学と物理が出来なきゃ話にならない。高校の段階でそれに気が付いてから、わたしの中から建築士の夢は消えた。


そもそもどうして“橋”が好きなのか。

渡った先に何があるのか、何の上に架かっているか。それを考えただけでワクワクするから。

だけどそれだけじゃない。『何かと何かを“つなぐ”』という役目を担っているところにも心を惹かれる。まさに『橋渡し』という言葉通りだ。

自分がそれを造る側に回ることは出来ないけれど、橋好きはそれでも変わらず、暇を見つけては橋を観に行ったものだった。


そんな高校二年生のある時。学校の帰りに寄った海沿いの公園で、ぼうっと橋を眺めているうち、ふと思い立ったのだ。

『そうだ、わたしも何かを“つなぐ”人になりたい』―――と。

海にかかるあの橋は造れないけれど、海の向こう側ととこちら側を繋ぐことはできるかもしれない。

幸い語学なら得意分野。子どもの頃から親が英会話を習わせてくれていたおかげで夏休みにホームステイもした。

そう思い立ってからの動きは早く、外国語やグローバルな就職に強い大学を狙って受験し、見事合格。入学してからは第二外国語の中国語にもはまった。

大学二年生の時にした留学先のアメリカで、寮の同部屋になった相手が中国人留学生だったことも幸いした。
日本のアイドルの大ファンだった彼女と英語と中国語と日本語を織り交ぜながら楽しく会話をしているうちに、半年の留学期間が終わるころにはお互いの国の言葉がそこそこ話せるようになっていた。

そうして懸命に就職活動をした結果、前職の【パシフィック(P)グロッサリー(G)物産株式会社】に無事入社することが出来たのだ。


【PG物産】は輸入食品などを主に取り扱う中堅の会社で、わたしはそこで商品の輸入に関して必要な手続きや書類作成、入力業務、ファイリングなどの事務処理に携わる “貿易事務” の仕事をしていた。

仕事は大変だけど、やりがいがあって楽しかった。辞めるなんて考えもしなかった。

三年前のあの時までは。


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