さっき目を覚ました彼女と話したとき、充血した目と腫れぼったい瞼が少し気になった。

 聡子さんの言うように、階段から落ちる寸前まで泣いていたに違いない。


「私も、知らずに式場に向かって、式場スタッフに挙式はキャンセルになったって聞いてパニックになって。そんなときに、あの子が救急搬送されたって連絡がきて……」


 聡子さん自身も、未だこの状況を処理できていないのだろう。

 次々と突き付けられる残酷な現実は、幸せを信じて疑わなかった親子を奈落の底へ突き落したのだ。


「久世先生、ごめんね。こんな話……」


 少しの沈黙が落ちた間、聡子さんは静かに涙を流し続けていた。

 無理して明るい口調で謝る姿に掛ける言葉が見つからない。


「嬉しい涙で濡らすはずだったのにね、このハンカチ……」


 聡子さんの手にある白いレースのハンカチは、まるでしおれた花のようにくたりと涙で湿っていた。