魔族の王子の進む道
兵士と王子
「…王子の命が掛かった時、小角族のこの娘を、王子のもとに贄に差し出すよう言った者が居たそうだな?」

兵士姿の男は周りを見渡しながらそう言った。

「そうなのです、兵士様…!!私の娘をお相手に選べば、間違いなく王子様は喜ばれるとおっしゃって…すぐに命でいらっしゃった兵士様達にうちの娘を……。本当なんです…!!この貴族様です…!!」

母親は必死に、娘のそばにいた兵士に訴える。

「あ……」

主催の男はたじろいだ。

「お前は、王子は弟王子の行方不明が原因で怒り、贄の娘を痛めつけ、幽閉するだろうと言ったそうだな??」

兵士に問い詰められた主犯の男は悔しそうに唇を噛み、吐き捨てるように言い放った

「っ…王子は弟君が居なくなった腹いせをするつもりで低魔族の娘を欲しがったんだ!!こんな馬鹿な娘、丁度いいだろう!!」

それを聞いた兵士姿の彼は怒りに震えた。

「愚か者め!!」

会場を切り裂くような雷が、彼の怒りとともに落ちる。

「!!」

その場にいた全ての者たちが凍り付いた。

「私も甘かった…国王と王妃が亡くなり、平等に魔族達を見ることをせず、何が王だ…!!こんなことを見過ごすようでは、別世界に道を見つけた弟にも、胸を張ることは出来ない…!!」

「?王子様……??王子様だあ…!!」

娘の言葉に、その場にいた者たちが一斉に彼を見た。

「え…!?」

彼は王子の姿に戻る。

「王子…!」

「王子様!!?」

周りの者たちは、先程舞台に乱入した男が第一王子だったと知り、狼狽え始めた。

「魔族同士の売買は禁止だ!!それに加え、そこのお前は仲間を率い、自身よりも弱い立場の低魔族達に不利な取引を持ちかけ、私腹を肥やしていたそうだな!!兵士達、この者共を捕えよ!!」

王子の命通り、兵士達は会場を取り囲み、誰残らず取り押さえた。


「許せ…私は、お前になんということを……何と思われても仕方がないのに……」

彼は下を向き娘に詫びた。しかし娘は、彼を見て呆然としながら言った。

「…王子様ぁ…あたしを助けてくれた兵士様は、どこに行っちゃったんですか??」

またしてもこんな時にまで娘の呑気な質問。

「…嘘だろう……?」

「ゼラったら…」

彼は深いため息をつき、母親は苦笑しながら娘を抱き締めた。



「ゼラ…!!おお、おぉ……こんな…二度もこんな目に合わせてしまうとは……」

集落に戻ると、族長が真っ先に走り寄ってきた。

「ギダ様ぁ!!」

涙を流しながら抱き締める族長の腕の中で、娘は皆のもとに戻れた喜びを、満面の笑みで噛み締めているようだった。
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