薄っすらと眼が開くか開かないかのところで止めていると、隣で私を起こさないように気を使いながらベッドから抜け出そうとする人の気配がしてくる。
 そして、上手に抜け出すと手早く着替えを済ませて私の寝顔……に軽くキスをしてきた。
 
 それだけで、胸の奥がウズウズとしてくる。
 思わず抱きしめたくなる衝動を抑えていると、志賀くんは部屋の外へと出て行く。

「うわ、これはまずいわね」

 すっかり目が覚めてしまい、自分の現状が段々とわかってくると恥ずかしさと気だるさが同時に襲ってきた。
 
「これは、本当にまずいわね」

 彼の香りがする枕に顔を埋めるだけでポッと心が落ち着いていく。
 昨日結ばれているときに自覚してしまったが、どうやら私は志賀くんが好きなようだ。

「でも」
 
 ボソリと呟く、彼も好きと一応言っていたし、こう何度も抱いてくれたのでおそらく嫌われていないだろう。
 いざ自覚してしまうと、なぜか急に不安な気持ちもでてきてしまった。

「だって、七つだよ」

 歳の差七つって、どうなんだろう? よく男性が上って聞くけれど……。
 自分の年齢と、肌や髪を見ると自信が無くなっていく、やっぱり若い人は手毬さんのような感じの子が好きなのではないだろうか? 私だったら、きっとそっちを選んでいる。
 本当の意味でお互いの気持ちを通わせていない、だから不安なのかもしれない。
 しかし、ここである疑問が浮かんでくる。

「そう言えば、なんで志賀くんは私を?」

 いつも軽く挨拶か数分会話をするだけだったのに、彼から出た【好き】という言葉。
 軽い感じで言ったのでライク的な意味合いの可能性もあるけれど、ライクで寝ている女性にキスをするだろうか? いや、そんなに男性経験が多いわけではないので、ハッキリとは言えない。
 
「むしろ少ないかも……」

 ベッドの経験人数だってまだ彼で二人目、しかもブランクは八年以上もあった。
 そして、当時はそんなに気持ちよいとは感じておらず、どちらかというと勢いで行っていた場面も多々あった。

「はぁ、もうわからない」

 ガバっと起き上がると、ぼさぼさの髪が頬にはりつく、服は昨日の夜の匂いがキツク着られないので、また彼の服を拝借して着てみる。
 やはり大きい、ちょっと肩のラインがブカブカでするっと落ちてしまいそうになる。

「よしっ」

 謎の気合を入れて部屋から出ると、お味噌汁の香りが私の鼻を刺激した。
 
「あ、おはようございます」

「う、うん、おはよう」

 相手のナチュラルな挨拶に毎度のように素直に返せない、しかも意識してしまった以上更に顔まで見れずにいる。

「ごめなさい、また服かりちゃった」

「いいですよ、いくらでも貸しますよ」

 人懐っこい笑顔で応えてくれる。 その顔を見るだけでトクンっと心臓が早く動きだしてしまう。
 私はその場から逃れるように、自室へと戻るとお風呂の準備を始めた。
 脱衣所で服を脱ぐときに彼の香りがフワッと漂うと、スッと吸い込んでしまう。

「変態みたいじゃない」

 自分が段々と抑えられない感覚になり、ネットに丁寧に服を入れ自分のと一緒に洗濯のボタンを押した。
 お風呂からあがると、さっぱりする。髪の毛をとかし風力のあるドライヤーで一気に乾かしていく。
 脱衣所からでると、ご飯が出来上がっており席につくと志賀くんも座って「いただきます」を言う。

 お互い、昨日の話題は出さずにいつものように適度な会話をしつつご飯を食べていった。
 今日のメニューは、味付けの薄いものがメインでお酒にやられた胃でもスルスルと入っていく。
 こういった気遣いができるって、本当に二十二歳なの? と、疑問に思うことがあった。

「それで、今日の予定とかありますか?」

「特にないかしら? 部屋でゆっくりしたいかも」

「そうですか、俺はちょっと会社に行かないとダメなので……」

 寂しそうな表情になり、思わず「えぇ? 行っちゃうの?」なんて言葉が喉まででかけたが、ぐっと飲み込んだ。

「そうなの? 大変ね、休みの日でもアルバイトがあるなんて」

「……あぁ、そうですね、休みの日じゃないとできない場所があって」

 確かに言われてみると、平日は朝から夜まで使っている場所は掃除できないだろう。
 だったら、やることができるのは休みの日しかない。
 納得し、今日は本当にゆっくりしようと心に決めて、後片付けをしていく。

「私がやっておくから、準備とかしたら?」

「そうですか? ありがとうございます」

 志賀くんがキッチンから離れていき、給湯器が動き出す音が聞こえてくる。
 お風呂に入っているのだろう、身だしなみを整えて家から出ていく、私は自室で音楽を聴きながら読書を開始した。
 読書といっても、彼が読んでいるような小難しい本ではなく、最近流行の大人の女性向けに描かれた漫画を読んでいる。

 しばらく読み進めていると、お昼になってしまう。

「ふぅ、ちょっと肩凝ったかな?」

 バキバキに固まりかけた肩をほぐしながら立ち上がると、キッチンに行き珈琲を入れる。
 私しかいない家が、こんなに静かなのかと思ってしまう。

 今まで独りでいることが当たり前だったが、今はほんのりと寂しいと感じてしまう。