信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
嵐の予感

すれ違う心


 彩夏はいつも講演する時、自分の体験を少し織り交ぜて話す様にしていた。
幼い頃動物と触れ合った事や、祖父母が高齢になった時、
老人施設の人達が小動物との触れ合いを楽しみにしてくれた事…
決して動物との触れ合いを押しつける事のないように淡々と話した。

 それが長谷川綾音達、動物愛護の団体に気に入られたきっかけかも知れない。
無理のない範囲で、自分が可愛がり世話でき範囲の動物を愛する事を
綾音は実践していた。もともと祖父の知人だった綾音は、
彩夏の講演を聞いたり森下牧場を訪れるうち、
綾音のペットの主治医として彩夏を認めてくれるまでになっていた。

 アニマルセラピーについての講演を終え、
控室で何人かの知人と交流を深めたり質問を受けたりしていたら、
マナーモードにしていたスマートフォンの振動を感じた。

 樹からメッセージが入っていた。
市内のホテルで、予定通り午後5時過ぎの待ち合わせになっている。
先週のあの(・・)ホテルだ。彼の常宿なのだろうか。
ふと、派手なドレスの女性が思い出された。
たしか売れ出したタレントで、肉感的な人だった。
『ああいう人が好みなのかしらね。』

 用意した離婚届を封筒に入れて、彩夏もホテルに向かうことにした。
あの女の人がいたらどうしよう…

 世間には高畑樹の妻だとか、高畑家の嫁だとか、一切公表していない。
戸籍上は妻でも、共に暮らしたことが無いのだから。
だが、その(いびつ)な関係をこれからも続ける気は無かった。
人生をリセットすると、彩夏は心に決めたのだ。



 時刻は夕方5時を過ぎたところだ。
ラッシュには少し早かったので、さほど送れずに待ち合わせ場所に着いた。


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