「急になにするんですか……っ。カップ落としてたら、割れたかもしれないんですよ?」

「ごめんごめん。でも、顔赤かったから」

再び指摘されるとますます恥ずかしくて顔が熱くなる。流れる水に手を浸したまま、動けなくなった。

「終わったでしょ? 行こうよ」

「さ……っ、先に、行ってください」

「いいよ。荷物持って玄関で待ってる。片付けたら来てよね」

渡瀬はそう言って、布巾を布巾掛けに掛けて給湯室から出て行ってしまった。小さい部屋に取り残された千秋はぼんやりと渡瀬が消えた給湯室の入り口を見つめてしまう。

(……今度は、消えた渡瀬くんに、また会えるのね……)

そう考えてハッとする。千秋の中で、またあの日のことが思い出されてしまった。

(あの時に捕らわれてちゃ駄目だ。ちゃんと自分の時間を歩かなきゃ……)

自分の歩みを確認することはなかなか難しい、と千秋は思った。