空を舞う金魚

男の人、ふたり


システム開発部がバタバタしている。今日から大阪支社から転勤になった人が此処で働くことになっているから、その支度だろう。今、件の社員は砂本さんと一緒に専務室に挨拶に行っている。今の仕事は社運を賭けた事業でもあるので、上からの期待度が高い、と砂本から聞いている。

千秋は事前に渡されていた書類を確認して、少し思考を止めた。この前同窓会の連絡を受けたばかりで、それの所為かもしれないけれど、書類に書いてある社員の名前に少し覚えがあると思うのは、気のせいだろうか。

砂本さんが専務室と会議室を経て、その社員と部内に現れた。部屋の奥に居る部長に引き合わせて挨拶をしている。砂本さんより少し背の低い彼の後姿が千秋の席からちらっと見えた。グレーのスーツに長い手足。スポーツをやっていたのかと思わせるしっかりした体躯の彼に、機嫌の良い部長はこう言った。

「これから、渡瀬くんにはうちの部の力になってもらいたい」
< 24 / 153 >

この作品をシェア

pagetop