綾城千秋(あやしろちあき)、二十八歳。短大を卒業して平凡なOL生活をしている。ルーティンワークに不平はなく、地味にお茶汲みや掃除、事務の仕事をしている。

「それで、逢坂は今日参加できるの?」

「え~、金曜に定時で帰れるんだったら、もっと別の遊びしたいですよ~」

「そうわがまま言わない! 半年に一度の部内の懇親会を馬鹿にしたら駄目だぞー?」

あと三十分で今週の仕事は終わり。みんなが帰った後にそれぞれのカップを洗って、各所にあるごみを纏めて、ごみの集積所に持って行けば、千秋も週末だ。

「綾城さんは? 綾城さんも行けるよね?」

懇親会の音頭を取っているのは砂本さん。面倒見が良くて、仕事も早い。すらっと高い身長とやさし気なまなざしの持ち主で、笑顔が素敵だから、女子社員からは微笑みの貴公子、なんて呼ばれている人だ。そんな砂本さんに言われると、皆参加しないなんて言えなかった。先に誘われていた逢坂(おおさか)さんもそうだったし、千秋もそうだった。

「一次会までなら参加できます」

「綾城さん、何時も一次会で居なくなるもんなあ。おうちが厳しいの?」

そういう訳ではないけれど、地味な千秋は何処に居ても埋もれるから、華やかな金魚たちが泳ぎ回る水槽の下に溜まった砂に隠れる魚のように藻掻いている時間が短い方が良いと思うだけだ。