空を舞う金魚

プロポーズは唐突に



滝川が飲み会をセッティングした金曜日。何時も通り部署のごみを集めて集積所まで持って行き、給湯室で従業員のマグカップを洗う。次々と持ち込まれるマグカップを洗っていると、渡瀬くんがカップを片手に現れた。

「行ける?」

「あの、これ洗い終わったら……」

そう言うと、じゃあカップを拭くよ、と言われて給湯室に並んで立つ。シンクに並んだカップを洗い、水切り籠に移すと、渡瀬くんが布巾で水気を拭って棚に仕舞ってくれる。……単純な作業なのに、それがなんだか恥ずかしい。

顔が熱いから、頬とか耳とか赤くなってるんだろうな、と思って、ひたすら黙々とカップを洗っていたのに、此方を見た渡瀬が千秋の変化に気付いた。

「? どうしたの、顔、赤いよ?」

「そ……っ、そんなこと、ありません……っ」

「えー? だって……」

そういって、つん、と千秋の頬を指で触った。

「……っ!!」

……持っていたマグカップを落とさなくて良かった。ほっと息をついて、渡瀬を見る。
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