偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「婚約者をほかの男に奪われたくないのは当然だろ。俺以外によそ見をするなよ?」


「し、しません!」


そもそも奪われるってなに?


「とにかくここでお前が生活するのは認めない。引っ越しの準備を早くしろ」


「無理です! いきなり引っ越しだなんて、それこそ噂の的になるわ」


「夫婦が一緒に暮らすのは当たり前だろ」


「まだ私たちは婚約者でしょ?」


「もうすぐ入籍するんだから、ほぼ夫婦だろ」


勝手すぎる定義に頭痛がする。


……ちょっと待って、今、入籍って言った? 


私の表情の変化に気づいたのか、彼が楽しそうに口角を上げる。


「来月には婚姻届を出す予定だからな」


「そんな話は聞いていません!」


「これから話すつもりだった。入籍の話は以前もしただろ。ちなみにこれは決定事項だから撤回はない」


飄々と話を続けるこの人は、本当に策士だ。


どうしてそんな風に落ち着いていられるの?


後悔しないの?


混乱して彼を見つめると、ふっと吐息が唇に触れ、再びキスをされた。


「俺が大事な婚約者と離れて暮らすのが心配でつらいと言えば、世間は納得する。一刻も早い入籍と同居をすべきだと助言されるかもな」


唇を離した瞬間、色香のこもった声で囁かれる。

そんなはずはないと大声で否定したいのに、今の私は頭がうまく働かず、足の力も入らない。

もしも彼が抱きしめてくれていなければすぐに崩れ落ちてしまうだろう。

彼に心も身体もどんどん絡めとられていくようだ。


「引っ越しを同意しないなら、今すぐ婚姻届を出すが?」


トドメのようなひと言に反論する術はなかった。
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