マリオネット★クライシス
終幕 「自分の人生は、自分で決める」

それからしばらくのドライブの後――車は、とある邸宅の敷地に入って行った。

ゲートをくぐってからずっと窓ガラスに頬をくっつけるようにして外を見てるけど、見渡す限り真っ黒な木、木、木……まるで森の中。
本命のおうちはまだ見えない。

道々聞かせてもらった、この先に待ち受けること、あるいは人物のことが頭にチラつくからかな。なんだか不気味に見えて仕方ないのはわたしだけ?


「日本の会社を任されることになった時に、元華族の屋敷を買い取って改修したんだ。あの人、そういう“由緒正しきなんちゃら”っていうのが好きでさ」
「そ、そうなんだ」

淡々と話すジェイは、特に何も感じてないみたいだけど……。

「えっと……あの、こんな時間にお邪魔して、ほんとに大丈夫?」
「連絡入れたら、今すぐ来いって言ってきたのは向こうだから」

大丈夫、そう言う声がほんの少し硬いことに気づいて、ハッとした。

そうだよね。彼だって人間だもの、ナーバスにもなるよ。
なにしろこれから会うのは、彼が“敵”と呼ぶ実の父親・李偉平氏で、いろいろなことに決着をつけにいくっていうんだから。


「ジェイ、栞ちゃん、見えてきたわよ」

運転席との仕切りがわずかに開き、聞こえた潤子さんの声で視線を前方へやると、わたしも気づいた。
鬱蒼とした森の中に突然、大正ロマン漂う堂々とした洋館が現れたことに。

美しくライトアップされた車寄せの先、観音開きの大きなドアの前へ、車が静かに停車する。

「いってらっしゃい。気を付けて」
「ジェイのこと、よろしくね」
心配そうに見送る宇佐美さんと潤子さんに頷き返して、降りていくジェイの後に続く。

ドアの前に、真っ黒なスーツに身を包んだ中年の男性が立っていた。
日本人、じゃなくて……東南アジアの方、かな。近づいていくわたしたちへ丁寧にお辞儀した彼は、聞き取りやすい正確な英語で話し出した。

<お帰りなさいませ。お待ちしておりました、ジェシー様>

< 327 / 386 >

この作品をシェア

pagetop