誘惑の延長線上、君を囲う。
雨に打たれる
「可愛い~!自宅に飾りたい!」

今にも雨が降り出しそうな梅雨の日の15時過ぎ、私は新作の商品を眺めては惚れ惚れしていた。陶器で出来ている小さな小物入れ。指輪とか入れるのに丁度良さそう。

私は無事に彩羽コーポレーションの"Иatural+"の面接をパスして、入社する事が出来た。地方の店舗が増えるまでは実際の店舗での研修となり、主に第3号店に勤務している。

来客がない時間帯はアルバイト店員の美鈴ちゃんと一緒に商品を眺めている。私はフルタイムの勤務で早番、中番、遅番のシフト制、美鈴ちゃんは掛け持ちアルバイトだから早番、中番のみ。美鈴ちゃんは私よりも歳が6つも下。身長も小さくて、話し方から立ち振る舞いまで全てが可愛い女の子。

「今日は来ませんね、日下部部長」

「本社での仕事もあるから、そう毎日は来ないんじゃない?」

「でも佐藤さんが出勤の時は二日に一度は顔出しに来てますよ!佐藤さんが休みの時は、よっぽど何かがない限りは来ないですもん!ぜぇーったいっ、佐藤さんに会いに来てますって!」

「……だとしたら、冷やかしじゃないの?私がきちんとやれてるかどうか見に来てるんだよ」

日下部部長こと日下部 郁弥(くさかべ ふみや)。高校時代の同級生であり、現在は上司。そして一夜限りの男女の関係。

美鈴ちゃんは私と日下部君が同級生だと知っていて、私達のやり取りを見ていた時から『二人の関係は怪しい…』と言っている。私は怪しい関係になりたいけれど、それはない。もう二度と身体を重ねる事もなければ、恋人にも発展しない関係だから。
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