誘惑の延長線上、君を囲う。
ひと夏の思い出
お盆期間の前後を含めて、一週間は休暇がある。その期間を利用して、日下部君がリゾートホテルのビアガーデン宿泊プランを予約してくれた。リゾートホテルは避暑地と呼ばれる自然に囲まれている場所にある。

「ビールもカクテルも飲み放題って凄いなぁ!こんなにオシャレなビアガーデンに初めて来たよ」

サラリーマンのおじ様方が沢山居る屋上ビアガーデンとかならば、前の職場の方々に誘われて行ったことがある。おじ様達が沢山居る屋上ビアガーデンも開放感が溢れていて好きなのだが、このビアガーデンは家族連れも居るし、若いカップルから年配の御夫婦も楽しんでいる。そんな和やかな雰囲気を持ちつつ、場所は緑に囲まれている事が、とてつもなく良い……!

「連休中はお互いに予定がなかったから、琴葉と来られて良かったよ」

「予定なんて毎年ないよ。だって、おひとり様だから……」

本当はおひとり様の私の為に毎年、友達が一日は予定を空けといてくれるのだけれど……、今年は予定があると言って断ってしまった。『彼氏が出来たの?』と聞かれたが、彼氏では無いので仕事が忙しいとか適当な事を言ってはぐらかした。

「琴葉はもう、おひとり様じゃないでしょ?目の前に未来の旦那様が居るって言うのに……」

日下部君は地ビールを飲み干しながら、小さな声でボソボソと呟いた。私は聞こえないフリをして、目の前にあるチョリソーを口に運ぶ。こんな時、どう答えたら良いのかが分からない。彼女ならば、『そうだね』と答えられるのに。
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