パパか恋人かどっちなのはっきりさせて!
9.DV疑惑事件―酔っ払って部屋を間違えて入ってきた?
今日、パパは仕事で帰りが遅いといっていた。おそらく午前様になるから先に寝ていてくれればいいと言っていた。

こんなに遅くなることは初めてだった。同居生活を始めてから7時前後には帰ってきていた。たまたま仕事で遅くなってもせいぜい8時ごろだった。

私が食事をしないで待っていてくれるから悪くて早く帰るようにしているのだとか。新婚さんはこういういう感じかなとか意味深なことを言っていた。

パパは私のことをどう思っているのかはっきり分からない。父親代わりとして、私の面倒を見てくれているし、可愛いと思ってくれているのは間違いない。だって、洋服を何着も買ってくれたし、ヘヤサロンにも連れて行ってくれた。

髪形をショートにした時に私をジッと見た目は確かに男の人の目だった。それに私がパパと呼んで良いかって聞いたときに、一瞬見せた寂しそうな表情、あれは何なの? 私を一人の女性としてみてくれているの?

私は元々パパが大好きだった。私好みのイケメンで、初めて会った時から叔父さんというより男性として見ていた。血のつながった叔父と姪は結婚できないけど、全くの他人だから当たり前だと思う。

事故があるまでは数えるほどしか会っていないけど、素敵な人と思っていた。だから、東京へ来て一緒に住まないかと言われた時は嬉しかった。

でもパパは私のことを大切にするだけで、手は繋いでくれても、自分からは指一本触れてこない。私の部屋には絶対に入ってこない、ノックするだけ。話すときもドア越しだ。

でもお風呂上りの私を見る目、あれは男の人の目だ。もし、パパが私を押し倒して、求めてきたら、どうする? 少し抵抗して受け入れる? そんなこと絶対に起こらないと思うけど、受け入れると思う。そんなこと考えていたら、眠ったみたい。

夢うつつの中で、私の部屋のドアが開く気配を感じる。誰かが布団をまくって布団の中に入ってきて私に覆いかぶさる。夢を見ているの? 夢じゃないと分かると、とっさに恐怖感から「ギャー」と奇声を連発してしまった。

でも少し変、覆いかぶさるだけで、何もしない。体重が私にかかる。アルコールの匂いがする。それにこれはパパの匂い? 酔った勢いで私の部屋に?

布団の中でドタバタしていると、外から玄関ドアをたたく音がする。隣の住人がマンションの警備会社へ連絡したので、ガードマンが急遽到着した。合鍵を使って部屋に入って、その侵入者を取り押さえた。

明るくなるとやっぱりパパだった。その後、パトカーが来るやらで一騒動になった。

私は驚くやら恥ずかしいやらで、どうしてよいか分からず、泣き出してしまった。私が泣いたことによってますますパパの立場は悪くなった。

パパは酔って間違って前に自分が使っていた部屋に入ったと言い訳をしているけれど、全く聞いてもらえない。こうなった状況からはDV(ドメスティックバイオレンス)か何かがあったと見られて当然だ。

それにパパと私の関係を聞かれていた。義理の姪だと答えていた。間違いがないけど、この状況ではなおさらDVを疑われる。

お巡りさんが私に事情を確認するころには、私も状況が呑み込めて、事の重大さが分かってきたので、パパの勘違いと私の思い違いをなんとかうまく説明できた。

お巡りさんは何度も私に本当にDVはなかったのか、そういうことで間違いないかと確認していた。私が何度も否定したこと、でようやくお巡りさんも納得したみたいで、パパは解放された。もう酔いはすっかり醒めたみたい。

ガードマンやお巡りさんが引き上げていった。ようやく平穏が戻った。疲れがどっと出た。パパはうなだれてぐったりしている。

「申し訳ない。酔っていたとはいえ、以前の自分の部屋と間違えたことは、全く迂闊だった。誤解しないでほしい。信じてほしい」

パパは手をついて謝ってくれた。

「始めは本当に不審者が入ってきたと思ったから大声を上げてしまいました」

「本当に驚かしてごめん」

「でも、でも少し変だったの。覆いかぶさるだけで、何もしないし、アルコールの匂いがしました。それにパパの匂いがしたから、酔った勢いで私の部屋に入ってきたと思ったの」

「ごめん、本当に自分の部屋と間違えたんだ」

「パパだと分かってからは、驚くやら恥ずかしいやらで、泣いてしまって」

「本当にごめん」

「それに部屋の内鍵をかけていませんでした。こういう間違いも起こると分かったので、これからは必ず鍵をかけます」

「そうしてくれると安心だ。でも二度とこういうことがないように気を付けるから」

「事情はよく分かりました。パパは疲れているみたいだから、もう寝てください」

「ああ、そうさせてもらうよ。おやすみ」

「私も寝ます。おやすみなさい」

その後、お互いに気まずさを感じながらも疲れて就寝した。

次の朝、パパはひどい二日酔いになった。

「酔っぱらいには本当に手数がかかりますね。身体に悪いのでこれからは飲みすぎに注意して下さい」

「今回のことで、身に染みて分かった」

それで朝食にお粥を作ってあげた。パパは、照れくさそうに「美味しい」と言って食べてくれた。

いつもより2時間遅れて、近所を気にしながら二人一緒に出かけた。なんとかお互いに信頼関係を修復できたみたいでほっとした。

でも、泥酔して無意識で私の部屋に侵入したのは、パパの心の片隅にそういう思惑があったのかもしれない。もしそうなら正々堂々ときてほしい。やっぱり無理かな?
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