白衣とブラックチョコレート

屋上から

「おい、何やってんだっ!」


ストレッチャーがオペ室に向かうのを見届けると、恭平はすぐに屋上へと向かった。

河西は転落防止フェンスの向こう側に立ち、ぼんやりと空を見上げていた。恭平の声に虚ろな瞳で振り返る。

「私は……私は……何てことを……」

「っ……当然だろ、何人傷付いたと思ってんだよ……!」

血塗れで運ばれてきた雛子を見た時、心臓が潰れそうなほど息が苦しくなった。喘ぎながら必死に恭平の名前を呼ぶ彼女が、このまま奪われてしまうかもしれない恐怖。

もう二度と、こんな気持ちを味わいたくなかったのに。

「違う……私は、私は灯火をっ……」

「はぁ? 何言って……」

この期に及んで何の言い訳があるというのか。違うと繰り返すばかりの河西に、恭平は苛立ちをぶつける。

「……ここは病院で、命掛けて闘っている患者が大勢いて、お前のやったことは罪深いことだ。でもっ……」



『河西、さん……追いかけて……』



自分が傷付けられても尚、河西を心配していた雛子。



「そんなお前でも、命を蔑ろにしたら泣くやつがいるんだよ……生きて償えよっ!!!!」


恭平の後ろから、屋上への階段を勢い良く駆け上がる足音が聞こえる。



「ごめんなさい……私は自らの手で、魔火を落とします……ヴェラドンナ様……」



扉が開き、武装した警官が数名飛び出してくるのと、まるで祈るように手を組んだ彼女が屋上から身を投げたのはほぼ同時だった。


「おいっ……!!」


慌ててフェンスに駆け寄る。しかし柵の内側からでは地上の様子を見ることができない。


「クソッ……何なんだよ……」


恭平は茫然として、フェンスの向こうの虚空を見つめた。











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