白衣とブラックチョコレート

傷痕

廊下はそれほど長くはなく、突き当たりの扉を開けるとそこは屋外に繋がっていた。そこから露天風呂の脱衣所までは四メートル程屋根付きの渡り廊下があり、周りは目隠しするように竹林に囲まれている。

なるほど、この造りであれば、縁の間を通る以外この先の陰の湯へは辿り着く事が難しそうだ。

雛子は冷えきった下駄を足にひっかけ、小走りで渡り廊下を抜ける。

脱衣所に入ると、案外作りがしっかりしているせいか寒くは感じなかった。ただ暗く古めかしい作りに何となく陰鬱な雰囲気を感じて、雛子は一つ身震いをする。

きっと気のせいだろう。そう自分に言い聞かせ、持ってきた浴衣やタオルを脱衣かごに入れて服を脱ぐ。

「……」

ふと横を見ると、狭い脱衣所に不釣り合いな程大きな姿見が壁に埋め込まれていた。

そこに映る裸の自分。

「やっぱり、目立つなぁ……」

胸部から腹部にかけて、未だに生々しく残る大きな傷痕。

雛子はそっと、その傷に指を這わせる。









綺麗に消えたら良いのにね、何もかも。






「えっ?」







ふと誰かの声が聞こえた気がして、雛子は辺りに視線を向ける。


「き、気のせい、だよね?」



思わず声に出して尋ねてみるも、それに応える者はいない。気を取り直し、雛子は脱衣所の向こうの湯船へと向かう。


「はぁ〜、あったか〜い……」

積雪の屋外に素っ裸というのはものすごく寒い。大慌てで身体だけ洗って湯船に浸かると、全身に血液が巡りじんわりと心地良さが広がった。

雛子は肩まで湯に沈み、この世の極楽を堪能する。

「温泉旅行なんて初めて来たけど、良いものだなぁ〜」

高級スイートにボーナスが吹き飛ぶなどのトラブルはあったものの、元々予定していた旅行に無事行くことができて良かったと雛子は心から感慨に浸る。

誘ってくれた同期達に感謝だ。

「……でもなぁ。この傷じゃ、一緒にお風呂はちょっとねぇ……」

自分の中では日常に見慣れた傷痕。学生時代から親友の夏帆にすら明かしていないこの身体を晒せば、皆だけではなく他の宿泊客にも不快な思いをさせるかもしれない。

「綺麗に消えたら……か」

しんしんと降り続ける雪をぼんやりと見つめながら、先程の幻聴を思い出す。



綺麗に消えたら良いのにね、何もかも。



例えこの傷が消えても、この傷を負う羽目になった忌まわしい記憶は、決して消えないと言うのに。

















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