気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第七章 パニックパニック!

波乱のはじまり


 きょうはにちようび、ぼくのなまえは、しんぐう たくと。
 ことしで18さいになる、こうこう1ねんせいだよ。
 ぼくはおしごともやってる、えらーいにんげんなんだぞ!
 

「……」

 プロットを書いていたら脱線してしまい、アホな文章になってしまった。
 担当編集の白金(しろがね)から、『明日打ち合わせしましょう!』と身勝手な電話があった。
 その後、電話をかけ直したが、着信を無視されているみたいだ。
 メールでも『明日はやめくてれ』と送ったが、返信なし。

 というか、日付変わってから、もう『今日』なんだけどな。
 あと5分で午前7時。
 朝刊配達を終えて、今日も眠気マックスだ。

 妹のかなでは、まだ夢の中。
 きっと母さんも仕事で疲れて……じゃなくて、ウイスキーでオンラインBL飲み会やってたから、自室で寝落ちしている。

 なので、俺は物音を立てないように、静かにリュックサックを手にとった。
 リビングで食パンを焼く。
 地元の真島(まじま)商店街で、買いだめしているコーヒーを淹れる。

「いい香りだ……」
 余韻にひたりながら、というか、現実逃避しながら朝食を楽しむ。
 久しぶりに徹夜で小説のプロットを書いていた。
 未完成だが。
 
 ピコン!

「またか……」
 徹夜したもう一つの理由はこいつだ。

 ピコン!

 タップする間にも次々送られるL●NE。

 ピコン! ピコッ……ピコン!

 見たくない。もうお腹いっぱい。
 アンナちゃん、数秒刻みで送ってくるから、スマホが熱々になっちゃったよ。
 イキスギィな行為だよ。

「はぁ、なにやってんだか……」

 朝食を終え、スタコラサッサーと真島駅に向かう。

 もちろん、アンナのことは放置している。
 付き合ってられん!

 電車に乗り込むこと数分。
 |席内(むしろうち)駅についた。

 プシューッという音と、共に一人の少年が同じ車両に入る。

「よ、よぉ、タクト……」
 目の下、くまで酷いことになってるよ!
「ミハイル……お前、寝てないのか?」
 そう言う俺も、声がいつもより小さい。
「タクトだって、くまがひどいぞ」
「ま、まあな」
 互いに強がる。

 だって、朝まで遊んでいたしな。いとこの古賀(こが)アンナと。

「ねぇ、いとこのアンナはどうだった? 可愛かっただろ☆」
 それって自分で自分のこと、可愛いってことだぜ。
「ああ……可愛かったよ。ミハイルに似ているな」
 俺がそうツッコミを入れると、彼は苦笑いで答える。
「そっか? あんまり言われねーけど」
 おい、床ちゃんとにらめっこすんじゃない。それに今日も風邪か? 顔が赤い。
「なあ彼女はどこに住んでいるんだ?」
「アンナ? えっとどこだろ……」
 歯切れが悪いな、設定ちゃんと決めておけよ。

 ~30分後~

 俺とミハイルは、いわゆる寝落ちしていた。

赤井(あかい)駅~ 赤井駅~」

 車掌のアナウンスが流れて、咄嗟に目を覚ますが、何かが俺の行動を邪魔する。
 視線を横にやれば、ミハイルが俺の腕にからんで「ムニャムニャ……タクトぉ」とニヤついている。
 可愛いけど、起きろ!

「おい、ミハイル! 赤井駅だぞ!」
「え? あっ、下りないと……」

 時すでに遅し。
 プシューという音と共に、車内の自動ドアが閉まる。

「「あっ!」」

 この時ばかりは、息がピッタリだった。
 ちこく、ちっこく~

「ど、どうしよう……宗像センセって怖いよな?」
 ヤンキーのくせしてビビるな。
「まあ次の駅で折り返そう」

 ~更に20分後~

 やっと俺とミハイルは赤井駅に到着した。

 二人して「ほっ、ほっ、ほっ」と走る。
 赤井駅からランニングだ。
 いい汗をかいている場合ではない。
 あの宗像のことだ。
 きっと鬼モード不可避である。

 長い長い上り坂、通称『心臓破りの地獄ロード』も走る、走る、走る!
 これは俺たちが宗像(むなかた)先生への恐怖から成せる所業だ。

「み、見えたぞ! ミハイル!」
「うん!」

 わざわざ、校門の前に一人の痴女が待ち伏せていた。
 一ツ橋(ひとつばし)に正門など存在しない。
 全日制の三ツ橋高校の正門である。
 一ツ橋高校の正門とは三ツ橋(みつばし)高校の裏口のことだ。
 なので、正門に一ツ橋の教師が立つなんて、よっぽどのことだ。

「くらぁぁぁぁぁ!」

 鬼の形相で両腕を組む。アラサー痴女、宗像(むなかた) (らん)

「遅刻だぞ、お前ら!」

 今日のファッションチェック♪
 宗像先生は総レースのスケスケボディコンですね。
 トータルホワイトコーディネート。
 足元もヒールの高い、白のハイヒール
 胸元を開いているわけではありませんが、レースの中が丸見え。
 巨大なメロンが二つもお山を作っています。
 どこの立ちんぼガールですか?

「す、すいません! 徹夜だったんで……はぁはぁ」
「オレもっす……ハァハァ」
 さすがのミハイルも息を切らしていた。

「お前らぁぁぁぁぁ!」
 これは殴られること不可避。
 覚悟を決めた。

「よく来れました♪」
 鬼の形相から一転、優しく微笑む宗像女史。
 ど、どういうことだってばよ!

「え?」
「だから遅刻してもよく来れたな、えらいぞ♪」
 そう言うと、先生は俺とミハイルを抱きしめる。

「なにを!?」
「センセ!?」

「いいからいいから……お前らは本当によく頑張っているな。先生は嬉しいぞ」
 なにが? おっぱいがプニプニ当たってて、キモいのなんのって。
 あ、でも、ミハイルともくっついているから、嬉しいと言えば嬉しいが。

「や、やめてぇ……センセッ、そろそろ放してぇ……」
 おいミハイル。声色が女だよ……色っぽいのう。

「おう、悪かったな、古賀」
「べ、別にいいっすけど……」
 顔を赤くして、何度か俺の顔をチラチラと確認している。

「じゃあ、二人とも元気にスクリーングはじめよー!」
 そう言うと、変態教師、宗像は俺とミハイルのケツをブッ叩く。

「いってぇ!」
「あんっ!」
 ミハイルだけ変な声だな!

 俺とミハイルは逃げるように校舎へと向かった。

 ブッ飛び~な高校で死にそう……。
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