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 仕事を終えて帰宅したのは夜の十時を回る頃だった。


「ただいま――」


 リビングに足を踏み入れると、ソファの背もたれによりかかって座る優月が目に入る。どうやら眠っているようで反応がない。隣に腰を下ろすと微かに寝息が聞こえた。

 一緒に暮らすようになっても寝室は別なので、こうして彼女の寝顔を見るのは一夜を共にしたあの日以来。かわいくて触れたくなり、自然と頬に手が伸びてしまう。

 夫婦っぽいことをしよう。そう提案したものの俺はいまだにキス止まりだ。

 俺としてはその先のことをしたいが、やはりそういうことをするのはきちんとお互いの気持ちが通じ合ってからだよな……。と、もうひとりの真面目な俺が歯止めをかける。

 俺が好意を寄せていることなんて優月は知らない。だからこの結婚には最初から愛なんてものは存在しないと思っている。本当は優月に対する一方的な俺の愛がたっぷりと詰まっているというのに、当然だが優月はまったく気付いていない。


『私と悠正さんはお互いのメリットのために結婚したので初めから愛はないし、だから冷めることもないですもんね』


 俺の想いに気が付いてほしいと思う。

 でも、伝えない限りは伝わらない。