信じる人々 ~カルト宗教団体潜入レポート~
◎素晴らしい公開講座!? (浄土真宗親鸞会)

(注:本項で取り上げる親鸞会は、一般に浄土真宗として知られる浄土真宗本願寺派や真宗大谷派などとは一切関係無い。)

 ある年の6月頃、近所の学校の中で「公開講座」の参加者募集を積極的に行なっている若者がいた。学校内で学生がやるイヴェントとしては少々時期外れという気もしたものの、自主的な講座や勉強会等に参加するのが結構好きな自分は「何の公開講座だろ?」と聞いてみる事にした。

「あの、何の公開講座ですか?興味ある分野の物なら参加してみたいんですが…。」

「そうですか!では今からこちらに来て下さい!」

小柄で小太り、そして四角い黒淵の分厚い眼鏡を掛けた20歳前後の男性に物凄く近い距離に顔と体を近づけられながら(引いても間を詰めてくる)、半ば強引に会場となる小さな空き教室に案内される。参加者は勧誘を行なっていた男性と自分の2人だけ、まさにマンツーマン。どう見ても「公開」されてる様には見えないんですけど…。おまけに何の講座かっていう質問にも答えてもらってないし。いや、主催団体すら聞いてねぇぞ…。ま、いいや。取り敢えず相手の話を聞くだけ聞いてみよう。

 バインダーに入った、イラスト入りの説明パネルをパラパラ捲りながら話してくれた。内容は要約するとこんな感じである。

「人はこの世で生きているが、この世の幸せを追求する事等に一体何の意味があろうか?どんなに御金を稼いでも、どんなに立派な行ないをしても、所詮死んでしまえば結局全ては無に帰し、全くの無駄、無意味である。本当の幸せとは、御金等とは別の物なのではないだろうか?御金や名声といったこの世の幸せ等という目先の利益への欲望を一切捨て去り、本当の幸せを追求する為に真実を学ぶべきだ。」

 現世で生きる意義を徹底的に否定した、何とも絶望感に満ち満ちた内容である。余りにあんまりな内容だったので、

「あの、自分に限らず人はいつか死にますが、人が築き上げた財産も、行ないの結果も後世の人々に引き継がれますよね。今生きてる自分達も先人達の築き上げたもののおかげで生かされてるんだと思いますし、社会に生きている限りどんな人の人生も無駄なんて事はあり得ないと思うんですが…。」

と感想を述べたが、それを遮って、

「どうでしょう?もっと学んでみませんか?」

と更に誘いが続く。学校近くで集まりを開いているというので、「こうなりゃ毒を喰らわば皿まで」と思い、ついて行く事にした。校内から歩いて数分、1階が1間のダイニングキッチン、2階にも部屋がある広めのアパートに到着。入口に表札は無く、昼間にも拘らず窓は分厚い濃紺のカーテンが閉めてある。中に入ると、会員と思しき若者や誘われたと思しき学生達が数名歓談していた。壁にはホワイトボードのカレンダーが掛けてあり、「講座」「合宿」等とスケジュールがびっしり書かれている。本棚に目をやると、親鸞聖人の生涯を描いたアニメのヴィデオテープ(出演:中尾彬、日色ともゑ他)が置いてある。成る程、浄土真宗系、少なくとも仏教系の新興宗教か…。

 指導者と思しき男性に声を掛けられる。年の頃は20代半ば位かしら?

「僕達はねぇ、素晴らしい事について学習してるんだよ~。君も合宿に参加しようじゃないか。空いてるスケジュールを教えてね。」

「あの、素晴らしいって具体的にはどんな感じなんでしょ?」

「素晴らしい事だよ~。いつ合宿に参加するの?」

「いや、どう素晴らしいのか…。」

「素晴らしい事だよ~。いつなら参加出来る?」

 全然答えになってねぇっつーの。幾ら具体的内容を聞こうとしても、とにかく「素晴らしい事」の一点張り。そして強引に空き時間を聞き出して合宿に組み入れようとするばかり。

 こりゃもう耐えらんねぇやと思い、「他の予定が確定してから伺います。」と言い残し、出された茶を飲み干して逃げる様にその場を立ち去った。彼等に関わると時間の浪費でそれこそ「全く無意味で無駄な人生」を送らされると感じ、2度と関わるまいと思った。

 校舎に戻ると、別の信者が定例校内演説会を終えた極左系団体の活動家達と論争していた。ガッチガチのマルキスト達に偏狭な仏教思想めいたものを説いたって時間の無駄だってば…。案の定、極左活動家達は呆れる様な、そして若干哀れむ様な表情で信者を見ていた。

 彼等の正体は浄土真宗親鸞会。浄土真宗本願寺派(西本願寺)から分裂し、富山県射水市に本部を置く。西本願寺や東本願寺(真宗大谷派)などとは激しい対立関係にある。系列出版社に「1万年堂出版」を持ち、教祖の高森顕徹による、「歎異抄」等の浄土真宗に関する解説書や、親鸞会系列の病院で働く信者の明橋大二(医師、スクールカウンセラー、真生会富山病院心療内科部長、NPO法人「子どもの権利支援センターぱれっと」理事長)による子育て支援やスクールカウンセリングに関する本を多数出版している。

 上記の溜り場のアパートに置いてあったアニメヴィデオは、「世界の光 親鸞聖人」というタイトルで、親鸞会の系列会社である「チューリップ企画」が制作・販売している。出演は屋良有作、松本保典、山口勝平、高橋幸治、麦人、柴田秀勝、石丸博也、緑川光、有本欽隆、石田彰、飯塚昭三、中尾彬、中尾隆聖、横尾まり、島本須美、日色ともゑ、藤田淑子、岩男潤子、金月真美など、「幸福の科学」制作アニメにも負けない極めて豪華なキャスティングとなっている。

 学生サークルとして活動している所では、「歎異抄研究会」等の名前を使っているとの事。信者の学生が布教活動に専念させられ殆ど学校に出席出来なくなったり、家族と連絡が取れなくなるなどの問題が相次ぎ、それらの問題を告発するサイトも開設されている。今考えると、「御金を稼ぐのは無駄」と強調していたのも、「金など全く無駄なものなのだから持ってはならない。だから全財産を教団に寄付せよ」と命令する為の方便だったのかもしれない。他にもオウム真理教や幸福会ヤマギシ会(ヤマギシズム、世界急進Z革命集団山岸会)など、全財産寄付を強要して問題となった集団が幾つかあったが、それと同じ様な気が…。

 彼等は今も何処かであの閉鎖的な「公開」講座を開いているのだろうか…。

◎基督の御許で仏(!?)を語る (幸福の科学)

 近所のミッション系学校の学園祭を廻っていると、1つ気になるサークル展示を発見した。「人生を考える」というテーマでの展示。しかし学校公認の基督教系サークルとは違う模様。覗いてみる事にした。

 会場の教室に入ると、明るい感じの若い学生風の女性が出迎えてくれた。

「今日はー。入場料500円です。」

 何!?サークル展示なのに入場だけで金取んのか!?!?しかしここで引き下がってしまっては、彼女等の実態を掴むチャンスを逸してしまう。ここは我慢して、泣く泣くなけなしの500円を払う。

 先ずアンケートを手渡され、回答する様指示される。生きる価値や生き方等、如何にも哲学的・宗教的な質問が20問程並ぶ。適当に回答し、係りの人に手渡す。後で設問に関して解説があるとの事で、出された茶を啜ったり菓子を摘んだりしつつ解説の人が来るのを待つ。

 解説役の人がこちらに来る。受付で案内をしてくれた女性だ。最後の設問「自分に危害を加えた事のある人が改心した時、自分はその人を許す事が出来るか?」という質問に「出来る」と答えた事に随分興味を示され、

「ホントに出来ますかー?」

としつこく聞かれた。適当に答える。

「いや、確かに腹は立ちますけど、相手を許すという姿勢でないと、いざ自分が失敗してしまった時に自分も相手から非難だけされて許されない様な気がして…。許し許されるというのが信じられないと、立ち直りたいと考えていても実際に立ち直るのが難しくなると思います。ま、願望を多分に含んでますが。」

「そうなんですかー。実はですね、こんな話があるんですよ。」

と、彼女は語り始めた。要約するとこんな内容である。

「盗みや強盗、傷害等、悪の限りを尽くした男がいた。ある日、いつもと同じく強盗を働こうとしたが、ヘマをして瀕死の重傷を負い行き倒れてしまった。彼の普段の行ないを知ってる人々は『これまでの行ないが悪いから罰が当たったのだ』と、男が助けを求めても無視したり罵ったりして通り過ぎていった。『俺はこのまま死ぬしか無いのか…。』と絶望していたその時、1人の人に助けられた。『自分の様な人間でも助けてくれる人がいた』と男は感激し、これ迄の自分の行ないを反省した。そして改心し、修行を積み僧侶になった。」

 う~む、基督教にも通ずる「無償の愛」や「赦しと回心」のような話だな。「良きサマリア人の話」もこんな感じの話だったかしら?しかし「僧侶」という事は矢張り基督教系ではなさそうだ。そして、

「私達は幸福の科学と言いましてね、…」

と切り出され、話は教団の説明に移っていった。な~んと、幸福の科学だったのね。名の知れた教団だが、実際の信徒を見るのは初めてだった。勧誘の話は適当に聞き流した。

 帰る際、教祖大川隆法の著書を1冊と、トレーディングカード等と同サイズのラミネート加工されたメッセージカードを貰った。カードには大川の著書から引用された言葉が書かれていた。本は後日ざっくり流し読みした後、即行で新古書店に売り飛ばした。ほぼ新品だったが、100円で買い取られた。その棚を見てみると、同じ本が何冊も並んでいた。古本屋も扱いに困るやろな…。

 幸福の科学は東大法学部を卒業した大川隆法(中川隆)が始めた宗教。教義は仏教を中心としながらも、有りと有らゆる宗教の教義を混ぜ合わせた混合宗教である。大川は「万物の創造主、エル・カンターレ」「釈迦如来の生まれ変わり」「イエス・キリストの恩師」「国師」(天皇の恩師)などを自称し、妻で同じく東大卒の大川きょう子(中川恭子)は「愛と美の女神・アプロディーテー(ウェヌス)の生まれ変わり」「文殊菩薩の生まれ変わり」「クリミアの天使、フローレンス・ナイチンゲールの生まれ変わり」などと主張している(後に離婚)。文書による布教が盛んで、系列の出版社「幸福の科学出版」より多数の書籍を出し、新聞や「正論」(産経新聞社)等保守・右派系の雑誌に大きく広告を載せている。又、無料の広報誌がポスティングされる事も多い。近年はアニメ映画制作・上映にも進出している。アニメの主演は子安武人が務めるのが定番となっており、他の出演陣も極めて豪華なキャスティングとなっている。

 政治的には保守派・右派であり、政治問題を扱う機関誌「The Liberty」で度々自民党支持・野党批判の記事を発表したり、単行本で「清和会」(自民党の派閥。森・小泉・町村・安倍派)代表だった三塚弘を持ち上げる「三塚弘総理大臣待望論」を発刊したり、丸川珠代(参院議員、大塚拓の妻、元TV朝日アナウンサー)や森田健作(鈴木栄治、千葉県知事、元タレント)等を公然と支援し、当選に貢献している。大川の著書の中には「日本は妾国家中国朝鮮を再び強姦する」等、愛國的・反中嫌韓的言動も有る。かつては創価学会批判も熱心に行なっていたが、自公連立政権成立後は自民党擁護の為か鎮静化している。

 さとうふみや(佐藤文子、漫画家)、河口純之助(河口宏之、ベーシスト、音楽プロデューサー)、大門一也(歌手、作曲家、「Project DMM」元メンバー)、小川友子(俳優)、景山民夫(作家)等が著名な信者である。さとうは布教のための漫画も描いている。所ジョージ(タレント)は景山から大川隆法の著書を大量に貰い、扱いに困ったという。又、小川と景山を中心とした講談社の写真週刊誌「FRIDAY」への抗議活動・不買運動、ヘアヌード反対など猥褻・ポルノ表現規制強化・推進運動などは有名。

 2009年には政教一致を公然と打ち立てる「幸福実現党」を結党。饗庭直道(初代)、大川きょう子(2代)、大川隆法(3代)を党首(隆法は「総裁」)とし、さとう(党文化部長)や河口、中岡陽子(竹内まりやの妹)、ドクター中松(党特別代表)らが衆院選候補者として上がっていた。全選挙区・全比例区ブロックに立てられるという候補者は殆どが幸福の科学職員だが、現職の地方議員や元国会議員秘書などもおり、東京都青梅市では既に幸福実現党の会派が出来ていた(後に衆院選出馬のため辞任)。主な政策は憲法9条撤廃による戦争準備強化・先制攻撃の合法化、憲法20条改定による信教の自由と政教分離の撤廃、人権条項を「法律の範囲内」に制限する、海外からの移民を積極的に受け入れて人口を3億人にする、大統領制導入により立法・行政権力を一極集中化させる、自由放任主義経済により格差社会を推進する等。「衆院で単独過半数を取り、政権を握る」と豪語し、各地で街宣活動を展開。小池百合子ら、自民党や維新政党・新風などの関係者の一部、保守派・右派の論客などの支持を取り付けていたが、全員落選し供託金没収の憂き目に会った。

 きょう子は宗教法人幸福の科学の役員を全て解任されており、一時は夫婦間の不仲説も相次いだ。当初はきょう子が実現党の党首に就任したことにより、表向き政教一致批判をかわすためとの見方も出ていた。しかし、後にきょう子と隆法は離婚。現在きょう子はカトリック教会に接近しつつヴォランティア活動に従事しており、教団はきょう子への批判を強めている。

 それにしても、身元を隠しているとは言え基督教系の学校で他宗教が大々的に布教活動を行なうとは…。凄まじい度胸である。


 上記以外でも、例えば創価学会や摂理(統一協会の分派)、ヨハン早稲田教会(韓国由来の聖霊派キリスト教会、極左団体「革命的労働者協会・社会主義青年同盟解放派」と対立)、「国策研究会」「雄弁会」「部落解放研究会」など極右・極左等の政治系、自己啓発セミナー関係などのサークルが、正式な団体名とは異なるサークル名で活動している例が散見される。また、ミッションスクールなど宗教系の学校では、YMCA(キリスト教青年会)や聖書研究会(YMCA・YWCA(キリスト教女子青年会)系やKGK(キリスト者学生会)系、CCC(キャンパス・クルセード)系など様々)、聖歌隊、ゴスペルサークル、仏教会、神道会、国学研究会などの宗教・思想系サークルが公認サークルとして活動していることが多い。また日蓮宗の分派で創価学会と対立している顕正会なども、身分を隠さず激しい勧誘活動を行なうことで知られる。一方、街頭での公然とした勧誘活動は、天理教、エホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会)、モルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会、分派に「復元イエス・キリスト教会」)等が行なっているが、オウム真理教(現「Aleph」)、法の華三法行(ゼロの力学、よろこび家族の和、現「天華の救済」)等による事件後、街頭での活動を行なう団体は少なくなってきている。

 正体の分からない宗教系サークルやイベントへのコンタクトは、得体が知れない相手と話すということもあって様々な困難を伴う一面もあるが、慣れてくれば「○○は××系」と見破ることがパズルのように面白くなる…かも?
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