ロート・ブルーメ~赤花~
 金色の狼は鎖骨をなぞるように指を動かすと、匂いでもかぐかのように首筋に顔を埋めた。

「んっ……」

 フッと、笑うような吐息が聞こえる。


「狼に食べられる赤ずきん。……諦めろ、猟師は来やしない」

 そうして耳を甘噛みしてくる彼に、あたしは思わずクスリと笑った。


 また、赤ずきんに見立てられた。

 そう、猟師は来ない。


「うん……知ってる」

 赤ずきんの元となったお話では、赤ずきんは狼に食べられておしまい。

 助けてくれる猟師は、存在すらしていない。


 そしてあたしも、紅夜に食べられるためにこの街へ再び来た。

 猟師の助けなんて初めから求めていない。


 あたしは紅夜の首に腕を回し、抱き着く。


「狼さん、あたしを食べても……いいよ?」

 そう、耳に直接囁いた。


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