社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 ――仁礼木の家は、家族であり家族じゃない。

 母は愛人を作り、兄はほとんど家に戻らず、父は仕事だけ。
 集まるのは、仁礼木の家でイベントがある時のみで、中身のない形だけの家族だった。 
 仁礼木の家の前を通り過ぎ、アパートの門をくぐる。
 門をくぐった庭の片隅に、志茉がいた。
 小さな畑は雑草ばかり伸びてしまい、なにも植えられていない。
 倉地のおじさんたちは、この小さな畑から採れた野菜を使って、よく料理をしていたのを思い出す。

「志茉」
「あ……、要人。おかえりなさい」

 やっと笑うようになった志茉。
 それなのに、俺に向けた微笑みは作り笑いだった。

「なにかあったか?」
「ううん。なにも……」

 元気がないといいより、どこかよそよそしい。
 コンビニの袋から、アイスクリームを出して志茉に渡す。
 アイスクリームについた袋の水滴が、乾いた砂の上に落ちる。
 その水滴を追って、うつむいた志茉が、突然、意を決したように顔を上げた。

「あっ、あのね、要人。そろそろ、お隣に戻った方がいいと思うの」
「志茉を一人にできない」
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