激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす
『今俺が手掛けてる仕事相手のお菓子。千花ちゃん甘いもの好きだったよね?よかったら貰ってくれる?』
彼にとったら、ただ仕事相手から貰ったものを千花にくれただけ。きっと他に何の意味も意図もなかったに違いないもの。
それでも千花にとっては、颯真から貰った初めてのプレゼントだった。
大好きな姉が急にいなくなり、身代わりで婚約を言い渡され、当時の彼氏とも別れ、進路さえも変更させられて落ち込んでいた当時、少しでも自分のことを考えてくれたのが嬉しかった。
何度か顔を合わせたことのあるだけの関係性だったのに、自分が甘いものを好きだと覚えてくれていたことに驚き、千花には珍しくはしゃいだ気持ちのままお礼を告げた。
すると颯真は少し驚いたような顔をしたあと、とても優しく微笑んでくれた。
17歳だった千花の心の中に、初恋の熱がぶり返したのはきっとこの時に違いない。
駅の構内をゆっくりと歩きながら、薬指にある指輪を親指で撫でる。
先日の飲み会以降、職場の保育園でも調理中以外は指輪を外さないことにした。千花を既婚者だと知らなかった同僚から「彼氏出来たの?」と興味津々に聞かれたのに対し、颯真との約束通り「結婚してるんです」と正直に答えている。
当然驚かれることのほうが多いが、いくら同じ名字とはいえ、まさか自分の同僚が月城不動産の御曹司と政略結婚しただなんて誰も思わない。意外にも深く突っ込んで聞かれることもなく、千花はホッとした。