クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
守りたいだけ


『和優…。』

規則正しい寝息が聞こえるようになった。
ピクリと肩を震わせたあと、妻は眠りについてしまったらしい。

とうとう、我慢できずに和優に触れてしまった。
胸だけの愛撫でも和優には刺激が強すぎたようだ。



柊哉だって男だ。聖人君主ではない。

今朝から何度も和優の笑顔に出会い、思いが膨れ上がってしまった。


車に乗り込み時の、ちょっと困ったような顔。

ウトウトと眠っている穏やかな顔。

元気に動くのはいいが、見ているこっちはハラハラしていたカフェでの微笑み。

客に話しかけられて、緊張のあまり強張る顔。

そして、いつもは着ない赤いチェックのシャツが映える笑顔。


半年も『妻』だったのに、こんなにも多彩な和優の表情を知らなかった。
いつも無表情で頑なな姿しか見てこなかったから…。

あれは、彼女なりの柊哉に対する鎧なのだろう。

『俺が避けていたからな…。』


妻を避けた理由は、どれも言い訳に過ぎない。
遠ざけてしまった一番の理由は…男のエゴから守る為。
側に置いていたら、この華奢な身体を壊してしまいそうで怖かったのだ。


日常生活が普通に送れているから、夫婦生活も大丈夫だと医師からは言われた。
だが和優の父親から、その闘病の年月と命がかかった厳しい日々聞かされると
やはり彼女の肌に触れるのを躊躇してしまった。


もし、妊娠でもしたら…。
今は機械弁が体内にあるから、血栓予防の薬を飲んでいる。
余りに出血のリスクが高い。出産は危険だ。

今、出産の為だけに生体弁に変えても、若いからまた何年かしたら手術になる。

これ以上、彼女に負担をかけたくない。

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