忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



「そりゃあマンションに比べりゃ見劣りするかもしれねぇけど。俺はそこまでボロいとは思わねぇけどなあ?」


「……ありがとう、ございます」


「ん?何が?」


「いえ、なんでもないです……」



気を遣われているのだろうか。……それでも、天音の言葉が嬉しかった。


両親が離婚してから、母親に女手一つで育ててもらった私は、就職してすぐに一人暮らしを始めていた。侑芽以外に休みの日に遊ぶような友達も特にいないため、今までこの家に来たことがあるのは傑くんくらいのもの。


"いいかげんもっとセキュリティの良いマンションに引っ越せ"とぶつぶつ言われるけれど、ひとまず次の更新まではここに住む予定だ。



「でも、セキュリティ面は難ありだな」


「……ふふっ」


「ん?どうした?」


「いえ……、傑くんと同じこと言ってるから」


「あぁ。そりゃあそうだろ。男ならどうでも良いけど、若い女が一人暮らしするには心配になる」


「今のところ特に何も無いですけどね」


「それは運が良かっただけだ。世の中はお前が思ってるより物騒なんだから。何かがあってからじゃ遅いって肝に銘じておけ」


「……はい」



ごもっともな言葉に、私は頷くことしかできない。



「引っ越す予定はねぇのか?」


「はい。……お金ももったいないし、次の更新まではとりあえずここに住もうと思ってます」


「それっていつ?」


「えっと……三ヶ月後です」


「ふーん」



改めて言葉にして、三ヶ月後に引っ越すのなら早めに物件を探さないといけないなと思い当たる。


近いうちに不動産屋に行かなければ。


そう思っているうちに部屋の前につき、天音に向き直る。



「……わざわざ家の前まで送ってくださって、ありがとうございました」


「ん。気にすんな。また連絡する。じゃあな、ゆっくり休めよ」



そう言ってくしゃくしゃと私の頭を撫でる天音。



「ちょっと……、やめてくださいよっ」



乱れた髪の毛を整えると、天音は面白そうに笑っている。


その無邪気な笑顔に、自然と私も口角が上がった。



「おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」



中に入るように促され、鍵を開けて部屋に入る。


扉を閉めて私が鍵をかける音を聞いてから、天音の足音が遠ざかるのを感じた。


部屋に戻るなり、ドレスを脱いで丁寧にハンガーにかける。メイクを落としてからシャワーを浴びて、部屋着を着てベッドに寝転がった。



「……なんか、魔法が解けたみたい」



まるで、午前零時を過ぎた後のシンデレラのようだ。


そうなると、さしずめ天音が王子様ということになる。



「……王子様か……。まぁ、ビジュアルは良いもんね」



目を閉じて、絵本に出てくる王子様の顔に天音を当てはめる。


しかしなんだか違和感があり、面白くなってしまう。


笑っているうちに眠くなってきて、私はそのまま眠りに落ちていった。


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