置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
梨花ちゃんに言われてからなんとなく気になってしまっていたけれど、加賀美くんはいつもとあんまり変わらないように思う。
朝も帰りもなんとなく同じ時間なのも、私の企画にダメ出しするのも何も変わらない。

ただ、大介くんと話している時はなんとなくこちらをみてくる視線を感じる。
今までとは違い、明らかな視線を感じ振り返ると目が合うことがままある。

なんだかみられていると居心地が悪い。

大介くんは気にすることなく私に話しかけてくれるが私が気まずい。

「槇村さん、明日からの冬休みは何してますか?」

「うーん、まだ決めてないかな。疲れたから家でゆっくり年越しするつもり。大介くんは?」

「俺は温泉に行きたいなと思って」

「いいね、温泉。ずっと行ってないな」

「なら日帰りで行きます?山梨か群馬あたりなら日帰りでも行けますよ」

「えー。どうしようかな。久しぶりに行こうかな」

「せっかくの冬休みだし、ゆっくり入りに行きましょう。美味しいものも食べてきましょうよ。クリスマスは仕事に追われて雰囲気も味合わえなかったんですから」

「そうだよね。クリスマスは忙しくて何もなかったし、久しぶりに温泉行こうかな」

「じゃ、いつにしましょうかね」

明日からの休みに浮かれ、大介くんと話していると梨花ちゃんがやってきた。

「なんの話ですか?」

「冬休み、日帰り温泉に行こうって話してたの。梨花ちゃんもいかない?山梨か群馬なら日帰りでも行けるって」

「えー、行きたい!一緒にいいってもいいんですか?」

「もちろん。ね、大介くん」

「もちろん。竹内も一緒に行こう。穴場教えてやるよ」

「大介くんは穴場探しが上手なんだよ」

いつ行こうかと日にちの相談をしていると梨花ちゃんが加賀美くんに話をふった。

「加賀美さん、冬休みにみんなで日帰り温泉に行くんです。一緒に行きませんか?」

「え?」

「加賀美さん、無理しなくていいですよ。休みの日くらい仕事から離れたいですよね。俺らはみんなで集まって温泉に行くんで大丈夫です」

梨花ちゃんが誘ったのを大介くんが断るように促す。
梨花ちゃんはギロリと大介くんを睨むが、大介くんも梨花ちゃんを睨んでいる。
お互い何も言わないが睨み合っている姿を見ていてハラハラする。

「ちょっと、まだ加賀美さんは何もいってないのにどうしてそんなこと言うのよ」

「無理に誘うなっていってんの。俺らだけでいいじゃん。俺らと行くのが嫌ならお前も行かなきゃいいだろ」

「そんなこと言ってないじゃない。私だって槇村さんと出かけたいもの」

「なら黙ってついてきたらいいだろ」

「加賀美さんだって同僚じゃない。誘ったっていいでしょ?」

珍しく大介くんが声を荒げている。それに抗戦するように梨花ちゃんも珍しく反撃している。

この2人は同期だけどたまに意見が合わずぶつかり合うことがある。お互い言いたいことを言えるからいいのかなと基本的にはいつも間に入らず聞いてることが多い。

でもそろそろ休み時間も終わり。 
せっかくの休み前なのにこんな険悪で終わりたくない。
楽しい日帰り旅行になると思ったんだけどな。
私が肩を落としていると加賀美くんが口を開いた。

「俺も行く」

「やった!」という梨花ちゃんの声が聞こえたと思ったが微かに舌打ちする音が聞こえてきた。大介くんが?とふと見るがいつもと同じ爽やかな顔をしていた。

「俺が車を出すから一緒に行っていいか?」
 
「加賀美さんの車に乗れるなんて嬉しいです。一気に楽しみになりました」

梨花ちゃんの喜ぶ声に私も良かったと思った。
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