再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司

見えない敵と、隠せない思い

日々の暮らしに絶対なんてものはない。
たった1年前にはなかった病気が人々の日常を変えてしまうのを見て、そう感じていた。

「患者さん、増えていますね」
「うん」

塙くんに話を振られても、外部に情報が漏れるのを気遣って曖昧に答えるしかない。

今、全国的に、イヤ、世界的に流行っているのは感染症。
ウイルスによる感染は目に見えなくて、その上人から人にうつる。だから、みんなが怖がっている。それは都会でも田舎でも変わりなくて、むしろ田舎だからこそたった数人づつの感染者に敏感に反応する。

「県境をまたいでの移動なんてするからうつるんだよ」
「おかげで二次感染も増えているんでしょ?」
「いい迷惑ですよね」
内視鏡の準備室で、研修医たちの会話。

ここはスタッフ以外が入る場所じゃないから、患者さんの耳に入ることはない。だから、内輪の話だと言われてしまえばそれまで。でも、医療にかかわるものとして感心できる行為じゃない。

「もし感染者にカメラが必要になったら、俺達も入るのかなあ」
「イヤだな」

その言葉を聞いた瞬間、プチンと私の中で何かが切れた。
もう我慢できない。文句を言ってやろうと立ち上がった時、

「君たち」
研修医たちを呼び止める皆川先生の声が聞こえた。

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