再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「杉原先生には『環のことをお願いします』って頼まれた」

もう、敬ったらよけいな心配を。
それも、わざわざ皆川先生に言わなくたっていいのに。

「大学の同期なんだろ?」
「ええ」
「仲がいいんだな」
「そうですか?」

たまたま知らない土地で大学の同期に再会しただけ。
それに、

「先生は産科の西村先生と幼馴染なんですよね?」
さすがに「付き合っているんですよね」とは聞けなかった。

「うん。小中高と一緒でね」

やっぱり。

「気になる?」
「え?」

それっきり会話が止まってしまった。
実際、気にならないわけではない。その理由はうまく答えられないけれど、気にはなる。
ただし、質問の意図が分からないからには答えようがない。


その後、宣言通り皆川先生に送ってもらうことになった私は、会話のなくなった車内に居づらさを感じながら副院長の自宅に到着した。

「本当は副院長にご挨拶したいところだけれど、今日はこれで失礼するよ。よろしく伝えて」
「はい」

と言うか、できれば送ってもらったことは黙っていたい。
色々うるさそうだしね。

「ありがとうございました」
「うん。ゆっくり休んで」

私が家の中まで入るのを確認して、皆川先生は帰っていった。
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