呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~

第4話



 ◇

 エオノラは書斎で机の上に置かれた裸石(ルース)を眺めていた。指紋がつかないよう白の手袋をつけてクッションの上に載ったそれを手に取る。
 運ばれてきたのはペリドットで、研磨された後に形を整えられて美しい輝きを放っている。

 記録書によれば三年前に採掘されて加工されたらしい。耳を澄ませるとペリドットからは穏やかな音が聞こえる。
(音的に北方の鉱山で採掘されたもので間違いなさそう。……これといって怒りも憎しみも感じないわ)
 石は種類によって鈴や竪琴、横笛など楽器のような音を出す。基本的にその音は採掘された地域に起因する。

 生きものに感情があるように石にもまた、感情のようなものが存在する。
 不思議なことに宝石や鉱物石にのみそういった音が聞こえ、石たちは音に高低差を出していろいろなことをエオノラに伝えてくれる。特に、エオノラが石に触れて意識を集中して強く語りかけると、石たちははっきりとした言葉を伝えてくれる。

 フォーサイス伯爵家は王宮で働く傍ら、宝石商や骨董品の宝飾品の取引を行っている。普段は専属の鑑定士を使って本物かどうかを見極めるが、たまにエオノラにも頼まれることがある。
 それは主にいわくつきの代物で、呪われていないかどうかを調べるというものだ。

 魔術師が数多く存在した遙か昔ならいざ知らず、この時代に魔術や呪術を使える人間は大変貴重だ。
 ペリドットをもとの位置に戻して蓋をしていると丁度誰かが部屋に入ってきた。後ろを振り返ると、さらさらとした金茶の髪に青色の瞳をしたエオノラの兄・ゼレクがいた。

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