囚われて、落ちていく
また後日、都麦が買い物中。
コーヒーでも飲もうと思い、カフェに入った。

コーヒーを買い、ガラス張りの窓際のカウンター席に向かう。
一際目を惹く女性がいた。
「あ……この女性(ひと)…」

すぐにわかった━━━━━━
あの日のホステスだと。

オーダーメイドなのか、特殊な香りのする香水に包まれた美しくスラッと背の高い女性。

その妖艶な姿に、同性の自分でさえも惚れ惚れする。

席が他にあいてなくて、その女性の隣に座った。
「あ、貴女……」
ホステス・月子(つきこ)も、都麦の存在に気づいた。

「こ、こんにちは…」
「こんにちは」
簡単に挨拶して、コーヒーを一口飲んだ。

「………貴女…」
「へ?」
「どこかのご令嬢?」
「え?い、いえ…ごく普通の家庭です」
「………」
不思議そうに目をパチパチさせる、月子。

「え…あの……?」
「だったら何?
貴女にどんなメリットがあって、一条様は結婚したの?」
「メリットですか?
メリット……」
「じゃないと、貴女みたいな平凡な子と結婚するわけがないわ!」
思わず、感情的になった月子。
声を張り上げてしまい、周りの客達の注目を浴びる。

月子がキッと客達を睨むと、目を反らす客達。
「…………貴女、恥ずかしくないの?」

「え……?」
「一条様の妻として、恥ずかしくないかって聞いてるの!何の取り柄もない自分が妻なんて、一条様に悪いと思わないの?」
「━━━━━!!!」

都麦は、何も言い返せなかった。

何も━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ただいま!つむちゃん!」
「おかえりなさい、刹那さん」
玄関で刹那に抱きつく、都麦。

「つむちゃん?どうしたの?」
「━━━━━━!!!!」
でもすぐに弾けるように離れた、都麦。
刹那から月子の香水の香りがしたからだ。

「つむちゃん!?」
「クラブ…行ったの?」
「え…!?」
「刹那さん“あの”ホステスさんの香水の香りがする」
「あ…うん…ごめんね。すぐ出てきたんだけど……」
「ううん。お仕事だし、しょうがないもん。
…………でももう、お風呂入って寝よう?刹那さんにギュってされて眠りたい」
「いいよ。でも、先にプレゼント受け取って?」

ソファに移動し、刹那が小さな箱を出して開けた。
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