囚われて、落ちていく
あるホテルのラウンジ。
笹原に連れられ、都麦は美波の元へ向かう。

「お嬢様、お連れしました」
奥の席で、紅茶を飲んでいた美波に声をかける笹原。

「こんにちは。
初めまして、長谷部 美波です」
美波が一度立ち上がり、都麦を見て微笑んだ。

「初めまして、一条 都麦です」
都麦も微笑んだ。

(大したことのない女じゃん!刹那様は、この女のどこがいいの?)
美波は都麦を見て、心の中で悪態をつく。

「今日は、突然ごめんなさい」
「いえ…あの“本当の主人”を知ってるって聞いてきたんですが、それはどうゆうことですか?」

「言葉通りの意味ですよ?」
「え……」
「一花組って、ご存知?」
「え……?それって……」

「一花組の組長の名前は、一条 武之助(たけのすけ)

「え━━━━━!!?」

「それだけ言えば…………“本当の一条 刹那”がどんな方なのかわかりますよね?」

美波の言葉が、都麦の頭の中をこだまする。
何度も━━━━━

てことは、刹那さんは………ヤク━━━━━━
「嫌!!!」
都麦は頭を抱え項垂れた。

これは夢!!
これは夢!!
これは夢…………?

とにかく、刹那さんに電話。

…………電話したところで、どうなるというのだろう。
“貴方は、ヤクザですか?”と聞けというのか。
聞いたところで、どうなる?

「あの……嘘ですよね?そんなこと……
私を騙そうとしてるとか?」

いや……どこかでそんな気がしていた…
時々刹那から漂う、あの恐ろしい雰囲気……

「本当の事ですよ。
大丈夫。すぐに、本当の事って嫌でもわかりますよ?」
美波は微かに微笑み、都麦を見据えている。

「都麦!!!」

「え……刹那、さん…?」
「フフ…やっぱり、来た!」

「都麦、おいで?
帰ろう?」
刹那が両手を広げ、都麦に近づいてくる。

この物腰の柔らかい刹那が、ヤクザ?
声も、雰囲気も、穏やかで優しい彼が?

そして都麦を抱き締めた。

煙草の臭いのするスーツ。
これは煙草嫌いの都麦の為に、刹那が都麦のいない所で吸っている証拠。

こんなに、都麦を大切にしてくれている彼が?

「刹那さんは、ヤクザなの……?」
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