囚われて、落ちていく
「そうだよ」

都麦はゆっくり、刹那を見上げた。
そして刹那は一度都麦を離し、胸ポケットから名刺を取り出し都麦に渡した。

【一花組 若頭・一条 刹那】

そこには“本当の刹那の姿”が書かれていた。

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刹那の高級車の車内。
後部座席に、刹那と都麦がいる。

「刹那さんは、私を騙してたの?」
「それは違うよ」
「だったら、どうして最初から話してくれなかったの?」

都麦の目は既に、涙でいっぱいで溢れていた。

「都麦のことを、失いたくなかったからだよ」
「え……?」
「騙すつもりなんて、さらさらなかった。
ただ……嫌われたくない。放れたくない。軽蔑されたくない。
そんな思いでいっぱいだっただけ。
だって、都麦といたあのカフェでの数時間は俺にとって本当に幸せな時間だったから。
あの時だけは……自分が若頭だってことを完全に忘れて、ただの男でいられたから。
都麦に告白された時、本当はちゃんと話そうとしたんだ。でも、怖かった……
確実に嫌われると思ったから。
もう二度と、会えなくなると思ったから。
そんなの、俺は耐えられない。
それ程、都麦に惚れて放れられなくなっていたんだ」

「刹那さんは、狡いよ!!」
声を荒らげる、都麦。
普段都麦はこんなに声を荒らげることはない。

「都麦…?」

「こんなにまで私の心を奪っておいて、本当はヤクザですなんて………
放れられなくなってるのは、私の方なのに狡い!!」

「うん、そうだね」

「…………刹那さん」
「ん?」
「ちゃんと……受けとめるから、正直に教えて?
今度は嘘つかないで?」
都麦は刹那のジャケットを握りしめ、見上げて懇願するように言った。

「俺は裏の世界の最大組織、一花組の若頭だよ。
もちろん、一条不動産の代表取締役でもある。
都麦の勤めてたカフェも、俺の管轄(シマ)だったんだ。
都麦に初めて出逢ったあの日から、あの周辺を管轄するようになったんだよ」
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