小さな願いのセレナーデ
表舞台を去った後
──あれから三年近くの月日が流れた。

私はとあるホテルのロビーラウンジに居た。
二層の吹き抜けの解放感が素晴らしく、クラシックで高級感のある調度品で整えられた、まさしく格式高いホテルのラウンジに相応しい光景だ。

私はその中央にある舞台で、バイオリンを弾いて……いる様子を眺めていた。
ソファーに深く腰かけて、おかわり自由のコーヒーを片手に。

カルテット編成─バイオリン二人、ビオラ、チェロの四人で演奏されているのは、モーツァルトの弦楽四重奏14番。『春』とも呼ばれるこの曲は、モーツァルトの明るく優雅で、心が軽やかになる作風を余すことなく感じれる曲。少し優雅さを感じながらもリラックスをして聞きたい、このラウンジにピッタリの選曲だと思う。

きちんと背を伸ばして聞き入っていると──バイオリンの一人と目が会った。ほんのりと口角が上がった気がしたので、私も微笑み返す。

彼女は私の後輩であり教え子の一人、ともみちゃんだ。
現在私の母校、桐友学園大学音楽科の一年生で、今でもたまに指導に当たっている。
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