その星、輝きません!
不安
*****


「何で、また居るんだよ?」

「だから、会員になったと言っただろ?」


「だったら勝手にやってくれよ。いちいち俺を呼びつけないでくれ」

 良太は、俺のトレーニングメニューを書きながら言った。


「この間のバイト代振り込んでおいた」

「あんな高いスーツまで買ってもらったのにいいのかよ?」

「ああ。また、頼む」

「まあ、運転手くらいなら、いつでもやるよ」


 オッケーと手を上げた良太に、俺も手を上げて返した。


「ところで、姉ちゃん、今度いつ来るんだ?」

「なんだよ、それを聞きにきたのか? 直接本人に聞けばいいだろ?」

 俺はランニングマシーンに乗り、黙って良太を見つめた。

 クリニック意外の連絡先を知らない。俺は、確かにまた会えないかと聞いた。それなのに彼女は、たまたまだとか、偶然だとか言って逃げてしまった。いったい、どういう事なんだ。


「まさか…… 聞けないのかよ。でも、来月は必ず来ると思うぞ」

「何故だ?」

「姉ちゃん自分の誕生日だからな。毎年、ご褒美だって言って欲しいもの買って、旨いもの食うのに付き合わされる」

「誕生日?」

「ああ」


 誕生日と聞いた途端、胸の中がざわつき始めた。とにかく、ランニングマシーンの上を走り続ける事にした。

 シニア会員に呼ばれて、遠ざかって行く良太の背中に向かって叫んだ。

「姉ちゃんの欲しい物は?」

「はあ? ジェット機じゃねえ?」

 良太は、振り向きもせず言った。


「他には?」

「南国のプール付きビィラとか言ってたぞ。 セレブ特集のテレビ番組見て嘆いていたなぁ」


「なるほど……」

 良太が振り返った。


「うそだろ……  あはははっ。焼肉だよ、焼肉。生ビールあれば、上機嫌になるから安心しろ」


「焼肉かぁ……」


「そうだよ、焼肉だ」


 良太が何か言っていたが、俺は、颯爽とランニングマシーンの上を走り続けた。
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