「リーン様。どうして、アスカリッドへ? リーン様がいなくなられては、寂しいです」
 両手を組んでぎゅっと握りしめ、寂しそうに青い瞳を揺らすエレナ。金髪の真っすぐな髪がハラリと肩を流れた。

 アイリーンは左手でソーサーを持ちながら、ゆっくりと口元にカップを運ぶ。そして、そのカップをソーサーの上に戻し、テーブルの上に置く。両手を膝の上で揃えた。
 向かい側のジジとエレナを真っすぐと見据えるその目は、薄い水色。

「それはもう、この作品のためですよ」
 いつの間にかアイリーンの手には二冊の文庫本があった。その表紙は薄い若草色の背景に深緑色の文字で何かが書かれている。多分、本のタイトルであろう。

「皆さん、隣国のアスカリッドでは様々な恋愛ジャンルの物語が盛んなのです。このプーランジェでは恋愛ものといったら普通の一般的なラブストーリーだけですよね」

 アイリーンが言っている一般的なラブストーリーとは、男女が恋に落ちていろんな試練を乗り越えた末に、最後には結ばれるというハッピーエンドな物語のことを指している。

「ですが、隣国では違うのです。この本のように私たちの好きなアレがきちんとジャンルとして確立されていて、いろんなタイトルの本が出版されているのです」
 銀色の流れ落ちてきた髪を耳にかけながら、アイリーンは言った。

「リーン。まさか、リーンの言っているアレって」
 と口を挟んだのはアイリーンの隣に座っていたカーナ。彼女はアイリーンと同じ公爵令嬢。昔からの幼馴染で、お互いのことをお互いよく知っている仲。残念ながら、今のクラスは別々になってしまった。でもカーナはエレナと同じクラス。