不本意であるがイブライムの申し出を受ける形となったアイリーン。もっと不本意であったのが、宿まで送ってもらった後に、父親に挨拶したいとか言い出したこと。仕方ないから、この二人を会わせてみたものの、お互いの国の言葉が苦手な二人がどんなやり取りをしたかは定かではない。というのも、アイリーンは追い出されてしまったから。
 戻ってきた父親がウインクをしながら右手の親指を立てていたが、これが何のジェスチャーかはまったくわからなかった。

 次の日、宿を朝早くに発つと、自動車でプーランジェへと向かう。今日の宿は来た時と同様にモントーヤ辺境伯の屋敷。父親は、こちらに迎えに来るときも一泊したらしい。
「レイがリーンに会いたがっていたよ」
 と馬車の中で言われるが、はて、どんな人だったっけ? とアイリーンは記憶を掘り起こしていた。プーランジェを経ってから、約三月(みつき)経ったわけだが、とにかくいろんな人と出会い、いろんなことがあった。だから、すっかりとモントーヤ伯のことが脳みそから抜け落ちてしまったのだ。
 でもそれを顔にも出さず、口にも出さない。多分、会えば思い出す。