アイリーン・ボイドがこれだけビーエル本に執着するには理由があった。
 実はこのアイリーン・ボイドは、前世の記憶を持つ転生者と呼ばれる者だ。しかも前世のアイリーンは、腐女子。いや、年齢的には貴腐人となるまで。ビーエルがビーエルと呼ばれる前、やおいや耽美と呼ばれていたころからビーエルを愛していた。結婚して出産をして、それなりの人生を送ったが、ビーエル本はけして手放さなかった。ビーエルは彼女の生活の一部だったのだ。
 生まれ変わった今でも、心残りなのはあのビーエル本たちと同人誌たち。前世で死んだあと、あの子たちはどうなったのだろう。という記憶がうっすらとある。そう、うっすらと。覚えているのはビーエルに関することだけ。よほど好きだったのね、と今でも思う。今でも好きだけど。

 そしてアイリーンにとっての今の人生の不満は、ここではビーエルが浸透していない、ということ。特にこの国では、恋愛ものは男性と女性で描かれていることが一般的である。
 配給が無いのって辛みしか無い、と思ったアイリーン。でも、根は腐っているから、どこからでも妄想を広げることはできる。
 そう思ったアイリーンは、わりと好きな恋愛小説の、その主人公級の男性とモブキャラ男性のサイドストーリーを自主的に書いてみた。もちろんビーエル風で。ブロマンス風、というのかもしれない。
 元々その恋愛小説において、男性主人公とモブキャラは親友だった。男性主人公が運命の女性と出会い、苦難を乗り越え彼女と結ばれる様子を、このモブキャラは一番近くで見守っていた、というのは公式。だけど彼は自分の気持ちに気付くものの、男性主人公の幸せを願って身を引くという、のは勝手に作ったストーリー。そして、そのモブキャラの心境を書いてしまったのがアイリーン。めちゃくちゃ本編と関係無い話。
 でも、創作は得意。だって、文芸部員だもん。