消えた未来
「……だから、どうして久我君にそんなこと言われないといけないんですか」

 小さな声の中にも、怒りが篭っていた。

「久我君に、私のなにがわかるんですか」

 そして、怒りに任せて声を荒らげた。

 だけど、久我君はまったく気にしていない。というか、聞こえていたのか怪しいと思ってしまうくらいの無反応だった。

 こんな反応をされてしまうと、感情的になってしまったのが恥ずかしい。

 俯いていたら、久我君のため息が聞こえてきた。

「一つ言わせてもらうと、他人の気持ちに寄り添うことはできても、他人の気持ちを完全に理解することなんて、誰にもできないから。俺のことは俺にしかわからないし、あんたのことはあんたにしかわからない」

 そう言われて、さっきとは違う意味で恥ずかしくなった。

 まるでなにもわかっていない子供みたいなことを言ってしまったんだ。どうしてそんな簡単なことに気付けなかったんだろう。

「誰かに八つ当たりする前に、好きな生き方でもしたらどうだ。織部真央の人生を生きられるのは、あんただけなんだし」

 ここで、それができたら苦労していないと言ってしまえば、同じことの繰り返しだろう。

 そして、気付きたくなかったことに気付いてしまった。
< 21 / 165 >

この作品をシェア

pagetop