タングルド
<嘘の婚約者>
「新二が台湾にまでやってきて彩香さんが闇金の狒狒爺(ヒヒジジ)いの情婦にされそうだから助けてほしいと泣きついてきた。新二が長く付き合っている女性でもあるし、二人同じ未来を見据えているのならと父を説得して森川住販の再建に手を貸した」

この辺りのことは社長は知っているのか黙って頷きながら聞いているが、夫人は時折、森川彩香、新二さん、賢一を見ながら話を聞いている。

「その時に、新二がISLANDに入社し社会人となった段階で本来のあるべき姿にもどす。それまでは品位を守ること、俺に干渉しないことという約束をしたはずだ」

新二さんと森川彩香は一言も発することなく下を向いている。

「ところが予定より早く帰国すると彩香さんは何かと俺に干渉してくるようになり、新二との間にできたかもしれない子供について跡取りとしなくてもいい、もし嫌なら堕胎するとまで言ってきた。実際は、妊娠はしていなかったのだが。さらに、新二と避妊もせずそんなことをしているくせに俺との結婚を切望するとか呆れて物も言えない」

「えっ?聞いてないよ。どういうこと?彩ちゃん」
唇を噛み締めて何も語らない彩香を見つめながら新二はさらに言葉を続ける

「彩ちゃんがずっと兄さんのことを好きなことは知っている、帰国した兄さんに何かしらの用事を見つけては近づいていることも、だから焦ったんだ。もし、彩ちゃんがオレとの子供を身籠れば、諦めてくれると思った。でも、それでも諦めてくれなくて、雪さんとの楽しそうな写真を見れば今度こそ諦めてくれるとおもったんだ。オレだけを見てくれるようになると思ったんだ」

そのためにあの日、写真を撮りに来たんだ。

「雪ごめん、本当は先に言っておくべき事だったのに、どうせ2ヶ月で俺の役割は終わるから敢えてこんな話をして嫌な思いをさせたくなかったのに」

だから2ヶ月
でも森川彩香にはあと2ヶ月しか無かった、だから焦っていたんだ。
でも、それなら新二くんのことはどうするつもり?


「わたしは」
ずっと沈黙を守っていた森川彩香が話し始めた


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