逆プロポーズした恋の顛末

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動物園で楽しい一日を過ごした夜。
大好きなおにいちゃん先生が実の父親だと知った幸生は、戸惑う素振りも見せずに尽を受け入れた。

月曜から一緒に暮らす予定を前倒しして、帰宅したその日から、尽はわたしたちのアパートヘやって来た。

所長には、狭いアパートではなく、自分の家で過ごせばいいと言われたが、わたしたちが移動するよりも尽ひとりが移動した方が労力は少なくて済む。

それに、いろんなことが一度に変化するのは、幸生にとっても負担が大きいだろうということで、1LDKのアパートでの同居となった。

幸生は、金魚のフン状態で尽のあとを追いかけ、話しかけ、自分に注意を向けてもらおうとする。何でも「ママ」だったのが、いまでは何でも「パパ」だ。

尽は、そんな幸生を邪険にすることなく、どんな質問にも答えるし、スキンシップを求められれば応えてやっていた。

実際のところ、あまりにもまつわりつかれて鬱陶しいのではないかと訊いてみたら、昼間はそれぞれ保育園と診療所で過ごすのだし、一緒にいられる時はたっぷり甘やかすつもりだと宣言された。

――愛情を出し惜しみするなんて馬鹿げている。

それが、尽の言い分だ。

不器用だけれど、まっすぐに思いをぶつけるその姿勢は、四年前と変わりない。
だからこそ、幸生はこんなにもあっさり尽を信頼し、父親であることを受け入れたのだろう。

わたし自身はと言えば……、適切な距離がわからずにいる。

尽を前にすると、どうしたって忘れかけていた「女」の部分が反応してしまう。

幸生の存在がクッションになってくれ、何とかギクシャクせずに済んでいるけれど、ふたりきりになると空気がピリピリする。

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